2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

エアフォース・ワン

大統領というものをこんなにカッコ良く描いていいのか。政治家を英雄に仕立てるのは危険なことではないか、というイチマツの危惧を覚えた。大統領が派手なパフォーマンスに走れば走るほど、そのあとには処理すべき澱が残されるということは、役者上がりの大…

ボルケーノ

病み上がりには特に映画が見たくなるが、そんなときに見る映画としては、フェリーニの「アマルコルド」などはふさわしくない。それは思わせぶりな衰弱した映画で、少しも元気が出なかった。この映画にあるのは、太った醜い女の巨大な乳房を前にして、もはや…

ダンテズ・ピーク

映画も数多く見すぎると、伏線というものが見るそばから分ってしまい、逆にそれを予測するという少し退屈な楽しみに赴くことになるが、この映画もその伏線の予想は大方当たった。 この映画の「使用価値」とは何か。 ピアース・ブロスナンとリンダ・ハミルト…

コン・エアー

傷ついた友達を見捨てないというアメリカ陸軍で顕揚されている(らしい)徳義に順ずる男が、神も顔を背ける凶悪犯たちと対決するという、幾たびも甦る勧善懲悪の怪傑ヒーローの物語。ヒーローはこの徳義に受肉させる為に自分の家族を劣後に置く。それらは同一…

太陽に灼かれて

尊敬していた自分の父親が、実は泥棒であり人殺しであったことが明白になった場合、子供たちはどのような内的傷痕を受け、そしてどのようにしてその痛手から立ち直れるのだろうか。スターリンという犯罪者に余すところなく蹂躙された旧ソ連諸国のことを思う…

ネバー・サレンダー

ネバー・サレンダーというのは例によって日本がつけた英語のタイトル。原題は「海兵隊2」という芸もなにもないもの(海兵隊1、というのがあったのか)。しかし、アメリカでは「海兵隊」というのは実在以上のものなので、この素っ気ないタイトルで多くのものを…

トゥー・ラバーズ

久しぶりに胸が絞めつけられる思いがする恋愛映画を見た。あるいは強い独占欲を伴う性愛の映画を。二人の恋人、グイネス・パルトロウとヴィネッサ・ショーの魅力の配分が前者に傾きすぎている嫌い(ヴィネッサを最初ヒラリー・スワンクと見間違えた)があった…

柔らかい殻

奇妙な味わいの映画。 何と言ってもアメリカの農地の超絶的な風景の映像美がすばらしい。広大な大地の上に無造作に放り出されたような空。その空を刻む偶然の造型としての雲。その雲に遮られる陽光の加減で刻々と色を変えていく草原。田舎道のうねりや傾斜が…

「狼たち」二編

狼たちの報酬 想像力のない陳腐なこの邦題。原題を調べてみると案の定、狼は全く関係ない the air I breathというもの。まだエアー・アイ・ブリーズとか、お得意の英語をカタカナに換えたただけという無能なタイトルのほうがまだまし。しかし映画の内容は良…

私に近い六人の他人

以前一度見てあまり印象に残らなかった映画だったが、ただその中で黒人の青年ポールが語る「サリンジャー論」の部分だけが気になっていた。再見してみると、やはり主演のウィル・スミスの魅力不足(アクション映画ならともかく)や、ホモシーンの生理的不快さ…

二十四の瞳

「仰げば尊し」の歌が、天上的に美しい歌として素直に聞こえてくる、そのような映画だ。小さな子供たちの学芸会レベルの芝居も我慢して見なければならない。そうしないと大人になった少女たちとの再会の場面での感動が味わえないだろう。たどたどしい子役の…

私は死にたくない

その根拠にどういう法理があるのかいつも釈然としないのは、司法取引というやつだ。検察側の立証を助けることを条件に、罪を一等減じてもらう、もしくは完全に免責されるもという制度をどう考えたらいいのか。実話に取材したというこの映画でも、本当の殺人…

ガープの世界

悲劇/喜劇を超えたところで「劇」を成立させることは可能なのだろうか。一人の子供が死に、一人の子供が片目をなくす悲惨な自動車事故。子供をなくした悲しみを原動力に従来の物語は推進されたはずだ。しかしここではその事故を招来したのは母親の情事であ…

終着駅 トルストイ最後の旅

博愛を訴えるトルストイ主義がもっとロシアに広まっていてくれればよかったのに。そうすれば終戦時のロシアの火事場泥棒もシベリア抑留も北方領土の不法占有もなかっただろうに。チェルトコフ(ポール・ジアマッティ)やワレンチノ(ジェームス・マカヴォイ)が…

ボーイズ・ライフ

これは二十世紀の実話のはずであるが、しかし内容は十九世紀然としている。継父に虐待された少年時代を生き延び、自分の道を見出していく男の物語。この悲惨な時代を生き延びるセンチメントは、アメリカが困窮していた時代から引き継いだもののように見える…

奇跡の海

意中の人との最初のデートでポルノ映画館に行く「タクシー・ドライバー」のトラヴィスがその時既に狂気に陥っていたのであれば、ポルノと連続した純愛物語を映画で作れないものかどうか考えている私も、頭がおかしいのかも知れない。しかしこの映画はその、…

ことの終わり

大胆なベッドシーンが売りになった映画らしい。なるほど、ほとんどそのままポルノに接続可能な映画のように思われた。ためにグレアム・グリーンの原作にあったと思しき、人間の愛と神の愛との相克なるテーマはどこかに吹っ飛んでしまったかのようである。ジ…

おっぱいとお月さま

大人が持てば性的オブセッションと見なされてしまう異性の肉体への執着を、その主体を子供にすることによって、性道徳的な非難から自由になるというのは卓越した発想だ。子供の目で見ることによって初めて、おっぱいはまさに月と同等の象徴的な物象にまで高…

TAXI NY

ひどい映画。普通どんなひどい映画を見ても、口直しにいい映画を見れば忘れてしまうのだが、この映画のひどさは映画自体が当分はもう沢山と思わせるくらいのものだった。もともとのフランス映画は、意味のないしゃべくりが延々と続く面白くない映画だが、舞…

運命のボタン

先の予測がつかない展開を見せる映画だが、こういう予測がつかない理不尽な世界が出てくるのはたいてい次のケースのいずれかである。 ①すべてが登場人物の幻想 ②登場人物はすべてすでに死んでいる ③宇宙人のせい これは多分③だろうと見当をつけたが、やはり…

トゥルー・ヌーン

突然、村の中に引かれた国境線に引き裂かれる婚約者、という設定はいくらでも物語を膨らませられる発想だと思ったが、結末は少しあっけない。国境線に地雷が敷設されたとき、すでに予感があったように、村の知者的存在のロシア人がその地雷を踏んで死んでし…

ダメージ

「燃えよドラゴン」の中で、分厚い板を蹴り割って、ブルース・リーを威嚇する極悪武道家に、リーが一言「板は蹴り返さない」と軽くいなすシーンがある。 「ダメージ」というこの物語のヒロインたるにはジュリエット・ビノシュには色気が足りない、と切って捨…

白痴

この映画の、見るに耐えなさは何に由来するのか。そもそもドストエフスキーの原作に含まれているものか、それとも日本の土壌に移管したときに必然的に生じた変質に由来するものか。東山千栄子は別格として、魔的な女性を演ずる原節子(ナスターシャ、那須妙子…

小間使いの日記

地主の当主(旦那:ミシェル・ピコリ)は見境なく使用人の女に手を出し、その父親(大旦那)は靴フェチ(彼は小間使いの履いた靴を抱いて悶死してしまう)であるなど、倫理は支配者の方にはない。密かに政治活動をする使用人(ジョルジュ・ジレ)の方に断固とした倫理…

美しき諍い女

すっかり引退してしまったあのエドワード・ファレンフォーレルをもう一度けしかけて、絵を描かせなきゃならん。描けば描くほど売れて金になるというのに、エドは城のような豪邸に引きこもって悠悠暮らしている。マリアンヌをエドに引き合わせたのは俺の作戦…

仕立て屋の恋

「剣と寒梅」が書店の店頭に山積みになった現象について。悪書・良書という区別が成立するとして、むしろマスコミに取り上げられ話題になる契機は悪書のほうに多く有されている。これは良書という肯定的価値基準が一般に成立しにくいのに比べ、悪書は多少の…

髪結いの亭主

三島由紀夫との交情を明かした福島次郎の「剣と寒梅」を読んでみた。三島の遺族からの抗議により回収処分になった本だが、この抗議は、却って書店の店頭に同書を山積みにさせ、また人々を書店に駆け込ませて、結果的により広く読まれてしまうという結果を招…

男が女を愛するとき

「レボリューショナリーロード―燃え尽きるまで」という映画もそうだったが、結婚して子供もいる夫婦が、子供などそっちのけで、僕が私がと言ってるのを聞くとだんだんあきれる思いがしてくる。見ていると「勝手に燃え尽きてくれ」と言いたくなってしまうのだ…

無法松の一生

なんだか虫の居所が悪い日にこの映画を見たせいか、かなり意地の悪い感想を持ってしまった。例えば、この映画に映された日本の風景や風習などは、普段なら懐かしさを感じて嬉しく見ていたかもしれないが、今回はただ単にせせこましいだけのものに見えて仕方…

サボテンの花

脚本が「アパートの鍵貸します」のI.A.L.ダイアモンドで、主演がジャック・レモンの相棒たるウォルター・マッソーと来たので少し期待していたが、もはや、このテの映画を愉しむことはできない自分を見出した。そもそもが古い映画であるが、イングリッド・…