2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

一縷の遺灰  Little ashes

日本人が余韻を重視する民族だって本当か。この余韻も何もない、胸が悪くなるような低劣な邦題(低劣すぎて書き写す気にもなれないが、我慢して書くと「天才画家ダリ 愛と激情の青春」―うー、恥ずかしい。30年前の日本の青春ドラマか)。一応の芸術作品が、映…

タイタニック

ハリウッドが最も得意とする分野、スペクタクル・パニック映画。一つの原型的な恋愛ストーリーを中心にして、さまざまな登場人物の人間模様を描くという、手法として類型的に確立された彼等のお手の物の映画である。しかもこれは実話であるから、かくも盛大…

毛沢東の最後の踊手

今後中国の政治的現実が、どのように語られていくのか、それはこの映画のように外国人の手に寄って暴かれるのか、あるいは中国自らが語り出すのか。どこまでが史実なのか、どこからが芸術的あるいは政治的脚色なのか。この映画では中国民衆の苦境はほとんど…

シャングリラ

映像美こそ素晴らしいが、ストーリーは少しかったるい。子供を失った人間がこの映画を見て悲しみが癒されるとはとうてい信じ得ないし、幸いそのような経験を持たない人が、わざわざ映画にその経験を求めるとは思えない。そもそも生死を超越した人間の真実を…

チベットの女 イシの生涯

劇中、毛沢東の肖像写真が一度だけ出るが、それ以外は中国共産党の存在は気配すらない。ラサの領主を亡命に追いやり、農奴を解放した共産軍の姿がなぜ出てこないのか。ダライ=ラマと中国政府との対立など喧伝されるほど激しいものでもないのだろうか。中国人…

胡同(フートン)のひまわり

文化大革命前後の中国家族の一代記。話は淡々としていて長すぎる嫌いあり。一番の美人は母親役のジョアン・チェンで、肝腎の恋人役の女優に魅力がないのは困りもの。文化大革命も払拭できなかった、というよりむしろ強化された父親の家父長の権力という価値…

チャーリー・セント・クラウド

映画について自由に語りたくとも、物語の結末に触れることは「ネタバレ」と称して原則的に禁止されるが、この邦題こそ最初からそのネタばらしをしているようなものだ。最初から兄弟のどちらかが死ぬことがそのタイトルから見当がついてしまうし、そして喪失…

父、帰る

菊池寛の戯曲の如く突然家に戻ってきた父。なぜ家を出たのか、その間何をしていたのか、なぜ帰ってきたのか、父の仕事は何なのか、無人島に何しに行ったのか、最後に少しは明かしてくれるだろうと期待して、退屈を我慢して見ていたが、途中の悪い予感が当た…

ハーダー・ゼイ・カム

ジャマイカ、キングストン市のスラム街、シャンティ・タウン。ここでの収入の大元はマリファナと音楽のふたつだけ。そのいずれにもボスがいて、ボスは当然警察と結託しており、支配と収奪の仕組みががっしり出来上がっている。歌の才能があるアイバンは持ち…

バスケットボール・ダイアリーズ

若いディカプリオと若いウォルバーグと、特に後者は地でやっているのではと思わせるほど、人に嫌悪感をもたらすキャラクターの二大スターの競演というところ。なぜかアーパーな娘役ばかりするジュリエット・ルイスを加えると三大スターか。ディカプリオはダ…

荒野の決闘(愛しのクレメンタイン)

ワイアット・アープの映画は沢山作られているので一覧表を作ってみたら、1994年の「ワイアット・アープ」までざっと9本ほどあった。時代が下るにつれてアープの偶像度は下がっている。それはアープに扮する役者がヘンリーフォンダ、バート・ランカスター、ジ…

ヤコブへの手紙

佳作。ただし映画文法としてレイラを「モンスター」のセーリーズ・シャロン並の美形(メーキャップでブスになっているが、シャロンである限りにおいてアトラクティブ)にすることは可。現実では、ある人との接触の時間とその人の容貌の受容度は相関しているから…

サクリファイス

結局良く分らない、あるいは分りすぎる映画だった。何か言いたいことがあったら、はっきり言いなさい、と言いたくなってしまう映画。分りやすそうでいて、所々にキリスト教のイコンが隠されていたりするから油断ならない。アジア人の君は知らないだろうが本…

教育

ヒロインのキャリー・マリガン、「ウォール・ストリート」で見た女優だったが、アメリカでなくイギリスに、しかも女子高に置くと可愛く見える。16歳の高校生に扮しているが彼女はこのとき24歳だった。まあ、さして無理なく高校生に見える。その相手は恋愛病に…

セラフィーヌ

キリストの花嫁に自分を擬する女性の描くおどろおどろしい植物画、その描く花や芽、実や葉などのことごとくが女陰のように見える。しかし、一人の画商がその絵を気に入り(ルソーやピカソを先行的に見出した画商だから「審美眼」はあるのか)売り出すことによ…

静かなる男

ジョン・ウェインの映画の中では毛色が違うので、なんとなく楽しみにしていた映画だが、あまりに期待と違い落胆。家族の同意がないと結婚できないとか、持参金がないと結婚できないとか、アイルランドの因習を巡るごたごた話で、静かなる男、と言ってもただ…

人生劇場 飛車角 続・飛車角

劇中人物、早稲田の学生にして文学青年たる青成瓢吉(梅宮辰夫)は、原作者尾崎士郎が執心しているキャラクターだが、その姿は例えばハーバードのエリートからはほど遠く、彼の周辺にはアカデミズムの欠片もない。彼を取り巻く世界は既得の利権を防護するため…

パーマネント・バケーション

予測どおり退屈極まる映画。大学の卒業制作の16ミリ映画で、制作費は1万2千ドルだというが、その低予算に驚くのではなく、こんな芸もない映像にそんなにかかったのかと驚く。多分カルト的ファンがいるのだろうからあまり悪口は言わず、敬して遠ざけるだけに…

セント・エルモス・ファイアー

著名な映画で青春映画の傑作とされているのに、どうしたわけか全く面白くない。もう青春映画を感受できる歳でないことは確かだが、それにしても感興の一つも湧かないとは。口が小さいだの、鼻の穴が大きいだの、俳優の肉体的欠点ばかりが目につく。平凡極ま…

ブルー・バレンタイン

話の内容を一切説明しようとしない描写方法は素晴らしいが、過去と現在がシャッフルされているので話が分りにくい。男(ライアン・ゴスリング)の髪の毛が後退していれば現在、女(ミシェル・ウィリアムズ)の頭が明るい金髪ならば過去、という風に見当をつけて…

エリート・スクワッド

1作目をちょこっと見たときいきなり拷問シーンが出てきて引いてしまったが、改めて見直すと評判通りのスゴい映画だった。MPならぬ軍警察とは一体何だろう。軍の一部を割いて麻薬犯罪専門の警察としたものか。その軍警察の中でのエリート部隊であるBOPE(ボッ…

棄国

「太陽に灼かれて」の続編だというので、話は分るかと思ったが、いかにも唐突に物語が始まる印象だ。そして「太陽に―」同様、苦界にうごめく人間をさんざん見せられて、また唐突に話が終わる。それも道理、これは三部作で、この後また後編があるのであった。「…

肉と血

邦題は「グレート・ウォリアーズ/欲望の剣」と原題とは似ても似つかないもので、これではポール・ヴァーホーヴェン監督のフェティシズムがまったく伝わってこない。テレビ放映時のタイトルはもっとひどく「炎のグレート・コマンド/地獄城の大冒険」だったら…

我が最良の敵

基本的にナチスとユダヤ人という楽しくもない主題なので、いくらミステリー仕立てにしたり、軽いコメディー・タッチにしたりしても、あまり身を入れて見る気がしない。話がややこしくてついていくのが億劫なだけ。モーリッツ・ブライブトロイの存在感で、とに…

黒い雨

これがこの世の出来事だろうか。この世で本当に起こりえたことなのだろうか。 この映画は決してヒステリックにならず、安易なヒューマニズムの訴えからもほど遠いところで、淡々と惨劇が進行するさまを描く。 この映画で私が感動した事の一つに、描かれた戦…

原爆の子

布団の「打ちかえし」をしている場面にたまらない懐かしさを感じる世代の人間でなくとも、日本人であれば原爆を扱った映画はとても平静に見れないだろう。夏の陽盛りの光を背景とした教会の塔の長映しのシーンがあり、また「原爆病」で死の床に伏す少女の部…

菩提樹  続・菩提樹

何を隠そう、「サウンド・オブ・ミュージック」は私の愛する映画である。もう何遍見たか分らない。見るたびに何だか気恥ずかしく思う場面が増えてくるのが玉に瑕だが、冒頭の丘のシーン、同じく「the hills are alive」を子供たちが歌うシーン、マリアの結婚式…

美しいマーサ

ドイツ映画。とどのつまり心理的にイジイジした映画というしかないが、和製メロドラマに比べたら、そのイジイジのレベルが違うのはもちろんである。確立されたあるいは強制された個の世界で、すこしずつつながりの部分を探っていくのがヨーロッパなら、日本…

愛の欲望

日本語のタイトルは愚劣だが、これは中身も愚劣な映画で、ショパンもジョルジュ・サンドも扮した俳優に魅力なく、特にサンドの気味悪さには怖気を振るわされた。「卒業」のアン・バンクロフトをさらにイヤミにしたような中年女で、これが「卒業」同様、ベン(…

中古のライオンたち

隠居した老人兄弟とその家でひと夏を過ごす甥、という設定を聞いて、また「頑固な爺さんとの心温まる交流」などという紹介文から、いやそもそもこの邦題から(この邦題では、よっぽどヒマしていないと見ないと思う)事前にぼんやりと想像していた範囲をはるか…