2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

シーズン・チケット

この映画に描かれるイギリスの貧しさ、悲惨さ、卑小さは筋金入りだ。日本は確実に零落しつつあるが、このような貧乏映画が作られるのは、まだ先の話だろう。しかし日本の自殺率はこのイギリスの4倍だというし、幸福度指数では世界80位以下というから、それほ…

グッドモーニング・プレジデント

戯画的に軽薄な人間にされた日本の大使が、韓国の青年大統領(チャン・ドンゴン)に呼びつけられ怒鳴りつけられるシーンに、おおかたの韓国の観客は快哉を叫んだに違いない。この映画では、竹島を巡って挑発行為をしているのは当然韓国側ではなく日本側である…

善き人のためのソナタ

この世の悲惨さを原資に、いくらでも「善い」話を作り続けるがよい。当方は「感動」とやらと引き換えに2時間ほどの時間を棒に振っただけ。 多分、善というものは我々の広大な心の中で、ほんの一角だけを占めている概念なのだ。全的に善なる心というものはあ…

アンチクライスト

16世紀に、女性であるというだけの理由で、女性を魔女として殺戮した歴史を持つ西洋人が、それに懲りるどころか、改めて魔女の実在を宣言し直してみせたという、驚くべき映画。ANTICHRISTのTの字をわざわざ女性のマーク♀としている(これはまた砥石のようにも…

アマデウス

天才を同時代人として持ってしまった男の苦悩と恍惚を演じてオスカーを取ったF.マーリー・エイブラハムの演技も見応えがあるが、同じく美術賞を取ったウィーンの宮廷の豪華絢爛たる装飾の再現もまた素晴らしい。オペラにイタリア語を使うべきか、ドイツ語を…

ナンネル・モーツァルト

邦題にはこのあと「哀しみの旅路」という余計なものがついている。アマデウスの姉、ナンネル。女性という制度の中で、断念されたある才能。王家の放蕩と、その放蕩を忌む王太子のヒステリーを背景に、その王家の歓心を得るためにまるでドサ回りの芸人さなが…

ドン・ジョヴァンニ 天才劇作家とモーツァルトの出会い

いちいち解説してくれてどうも有難う、大きなお世話、と言いたくなるようなタイトル。どこかのお笑い芸人を思わせるような風貌のモーツァルト(リノ・グアンチャーレ)にはがっかりした。モーツァルトを聴くときには:決して思い出したくない顔。「アマデウス」…

桜田門外ノ変

日本は文化的にも経済的にも既に十分に「開国」しているのに、TPPを第二の開国と呼んで、これに反対する人をあたかも頑迷な攘夷派のように見なす人たちがいる。そういう人たちがこの映画を見たら何と思うだろうか。 桜田門外の襲撃が「安政の大獄」への報復…

パパラッチ

意外な佳作ではないか。「大物」スターがちょくちょく顔を出しているのも楽しい。製作がメル・ギブソンというから、おそらく鬱憤晴らしのために作った映画なのだろう。ダニエル・ボールドウィンってボールドウィン兄弟の一人か。もしそうだとしたら総勢4名と…

サマー・ストーリー

全く予備知識なく見て、すっかり心を奪われてしまった映画。後で調べたら原作がノーベル賞作家ゴールズワージーの「林檎の樹」であった。 旅行先で農家の娘メーガンと恋に落ちた上流階級所属の青年フランク。彼は駆け落ちまで考えるほど彼女に惚れこむが、ち…

死刑台のエレベーター(2010年)

そのつまらないオリジナル映画が日本でリメイクされた。日本、というよりも2010年、という製作年代に期待した。「現在」の製作者がこの物語になおも見出した面白みは何か、ということに興味が湧いた。物語を現在に移行するためのアレンジの仕方にも興味があ…

死刑台のエレベーター(1958年)

このつまらない映画が当時斬新だとして歓迎されたという。美しく暗鬱な青年モーリス・ロネ、マイルス・ディヴィスの即興演奏、「太陽がいっぱい」のアンリ・ドカエのカメラ・ワークと、この映画のいくつかの美点を数え上げても、それでも面白くはならない。…

プルーフ・オブ・ライフ

民間軍事会社の顧客が誘拐身代金保険会社であるということは、南北間の格差という収奪の構造に、さらに別種の抜け目ない利権が加えられたようなものだ。誘拐されたダム建設会社の社員が、自分の行為が現地の福利を向上させる開発行為であるから免責されると…

プルーフ・オブ・マイ・ライフ

原作が劇の台本と聞いてイヤな予感。案の定、動きが少なく、ただセリフのみが延々と続く映画。戯曲を原作とする映画からは、たいてい映画特有の話の展開のスピード、高速の場面転換などという映画のメリットが消失してしまうものだ。あとは交わされるセリフ…

最後の恋のはじめ方

もっとマシな女優を使え ! と5回ほど絶叫した映画。主犯はエヴァ・メンデス。2005年 米 アンディ・テナント

再会の食卓

とても感触の良い映画だけれど、そもそも四十年間ともに暮らしたという生活の事実性を捨てて、大昔一年間だけ過ごして離ればなれになってしまった男の元にいまさら行こうとする女性の心事が理解不能で、共感できない。残りの人生は愛のために生きたい、って…

再見(ツァィツェン) また逢う日まで

両親を突然事故で失ったため、離散を強いられた四兄弟の二十年後の再会を描く。少し泣かせすぎの映画。貧困と家族と追憶という、泣かせる要素がそろいすぎているし、泣かせようとする手つきが見えもする。長女はアメリカに渡っていたので仕方がないが、他の…

Uターン

再見。なんとなくヒドイ映画だったという記憶があるのに、ショーン・ペンが見たくなって、またまた見てしまった。やはりなんともひどい映画だった。ひどいというのは話の内容だけのことで、撮影手法は結構面白いところがある。ホアキン・フェニックスとクレ…

アリス

ナオミ・ワッツが「マルホランド・ドライブ」の前年に出演したBBC製作のテレビ映画。感覚的な統制が取れていない映画で、生理的な嫌悪感に訴えて恐怖をかもし出すシーンと、純愛感情に訴えるシーンとが極めて無計画にばら撒かれている。ためにゴシック・ミス…

ミュージック・フロム・アナザー・ルーム

佳作ではあるが、恋愛心理の行き違いを描く映画にしても、どうせわかっている結果を導くまでの紆余曲折が長すぎる。それに、ジュード・ローって、一種の美男には違いないが、純愛モノのヒーローたるにはエキセントリックすぎるのではないか。1998年 米 チャ…

コールドマウンテン

南北戦争周辺の挿話として語られる、義侠団という半ば私的な警察組織の暴虐。アメリカ史の暗黒がかくて続々と露呈される。最後は一応ハッピーエンドだが、「ミッシング」を見た時同様、だからどうなんだと思わされるだけ。人生からたったこれっぽっちの「ハ…

フリーダ

交通事故にあったフリーダが、金粉にまみれ鉄パイプに下半身を刺し貫かれて横たわるシーンには、映像美というのも愚かなくらい、壮絶な生命力に満ちた美が横溢している。メキシコの陽光の下で、人間たちはひたすら愛の交歓に余念なき有様。なんだかこちらも…

ブラック・スワン

映画の紹介には、プレッシャーに負けて精神が崩壊していくバレリーナ、とあるが、このプレッシャーは正確に言えば性的オブセッションであろう。ブラック・スワンを演ずるために舞台監督から性的リテラシーを高めることを要請されたダンサーが、次第に性的妄想…

ピンキー

奴隷制時代に白人の主人が女奴隷を犯しまくっていたことは長い目で見れば人種の混交と宥和に役立ったのかも知れないが、遺伝の法則に従って白い膚を持つ子供が生まれた場合、そこに悲劇が生ずる。白人と黒人の双方の世界に隔絶があるとき、その子供が自らの…

白いカラス

フィリップ・ロスの、人種差別問題をテーマにした小説「ヒューマン・ステイン」の映画化。「白いカラス」とは極めて恣意的な邦題であって、これでは黒人の血が流れていながらそれを隠している人間を、あたかも英米では「白いカラス」と呼ぶというような誤解…

みなさん、さようなら

最近映画の邦題にカタカナが氾濫していることを物足りなく思っていたが、でもこの「ひらがな」邦題はさすがにいただけない。原題は「野蛮人の侵略」であるというのに。 内容にも少し異和を感じる。なにしろ主人公の死に際に、友人たちが集まるのはともかく、…

潮騒

三島由紀夫のそれではなく、これはフランス映画。 原題は「偶然と暴力」で、不条理感の色濃く漂う映画だった。イブ・モンタンの、こういう映画に向いている複雑な表情が利いている。昔、誤認逮捕で投獄された経験を持ち、そのときから暴力に興味を抱いた主人…

ティン・カップ

映画とは夢の顕現のようであるべきだと思うが、このゴルフ映画は、現実の方の素晴らしさに負けて、くすんでしまっている。映画の中でケビン・コスナーが放ち、それを特撮で細工したショットより、現実のプロゴルファーのショットのほうが素晴らしい。 現実よ…

ミドルメン/アダルト業界でネットを変えた男たち

この説明過多な、テレビのバラエティー番組みたいなタイトル。それにどうせ言うなら「ネットでアダルト業界を変えた」、だろ。中身はなかなか刺激的で面白い。家庭の良きパパも、お堅い検事も、テロリストも、みんな影で隠れてネット・ポルノで自慰をしてい…

ハピネス

奇妙な映画。妙に常識的感覚から逸脱した映画。この微妙な逸脱振りは「ホテル・ニューハンプシャー」や「ガープの世界」に共通した、いわば「文学的」な逸脱だ。性という恐ろしい爆発物を抱えながら、その暴発の合間合間にわずかに心の平静を盗み、そしてそ…