2011-01-01から1年間の記事一覧

黒いオルフェ

この映画を初めて見たのは、どこの映画館だったろう。内壁がスペイン風の白い土壁で、館内に幾本かの柱のある、小さな映画館だったような気がする。映画館の場所も名前も忘れ去ってしまうということは私にとって不思議なことだ。座席に坐っている分には何の…

アライバル

B級SF娯楽映画。女性気象学者(リンゼー・クルーズ)が事件の解決に重要な役割を果たすシブい役どころかと思いきや、ベッドに蠍を放り込まれてあっけなく死んでしまい、B級映画的に無惨な死顔まで見せてしまう。彼女を初め、主人公チャーリー・シーンの周りの…

ルイーズに訪れた恋は

「恋に揺れる中年女性の心情を繊細かつリアルに演じきった」と評にある。これはほとんど決まり文句のような評なので大した意味はないが、この映画を最後まで見てそう感じる人がいるとすれば、その人はよほどリアルの意味が分かっている人に違いない。すなわ…

目撃

検事に扮したローラ・リニーが、結局泥棒の父親クリント・イーストウッドと和解するのだが、和解後の、愛情に満ちた柔和な笑顔が、そういう笑顔を見せないときは彼女にそれを求めていたくせに、いざそれを見せてくれた段になって、彼女に求めているものがそれ…

私がクマに切れた理由

ロラー・リニーは超絶的に美しい女優だと思うが、いつ見てもあまりしっくりこないのは、彼女のカン違いな演技のせいだと思う。(「トゥルーマン・ショー」で泣き出すシーンとか、「アメリカを売った男」での冷たすぎる女上司の役とか) これは演出家のせいでも…

伊豆の踊子

同じ吉永小百合主演の「大空に乾杯」などとは異なり、時間の試練を越えて生き延びるであろう物語。一人の少女の淡い恋心という言わば定番物に過ぎないが、描かれた旅芸人たちのはかない暮らしのありように、この物語のもつ不朽性が感じられる。「愛のない結…

大空に乾杯

吉永小百合、和泉雅子、十朱幸代という往年の可愛いお嬢さん方が大挙出演しているにも係わらず、ドラマとしては見るべきものがなく、怱々に興味を失う。せっかく航空会社が舞台なのだから、ハイジャックでも起したらどうか、と言いたくなるくらいドラマツル…

ソーシャル・ネットワーク

いろいろな意味で刺激的な映画だった。アメリカの法曹界の法技術上の洗練ぶりにいまさらの如く感心する。彼らは法廷に持ち込んで社会的プレゼンスを得るべき事件と、和解に持ち込んで、時間を節約しながら実利を得るべき事件と、その対応の違いを心得ている…

バッド・トリップ

「100万個のエクスタシーを密輸した男」という長たらしい副題の説明に尽きるだけの、どうということはない映画だったが、登場人物が正統派ユダヤ教徒というのは珍しい。いろいろな映画のおかげで、安息日やハヌカや過越しの祭りやバル・ミツバなどユダヤ教の…

朝な夕なに

美しい女教師ルート・ロイヴェリック。このような女教師がギムナジウムに現れたら、悲劇的な恋愛が起こらざるを得ない。ましてこの女教師が、生徒との間に人間的な親しみを求める開明的な教師であればなおさらのこと。当然、彼女は一人の男子生徒の恋情の対…

夜も昼も

同じコール・ポーターを扱った映画「五線譜のラブレター」(2004)と見比べるのも面白い。この二つの映画は、およそ六十年ほどの時間を隔てて作られているので、同じ曲でも曲想が全く違うように聞こえる。その洗練という点では新作の方になるのだろうが、ダンス…

ジャイアンツ

真正のゲイだったロック・ハドソンとバイセクシュアルのジェームス・ディーンが世紀の美女エリザベス・テイラーを巡って恋の鞘当をした映画、ということを知っている今でも好きな映画だ。テキサスの大牧場主のハドソンが、メキシコ人の牧童を怠け者といって侮蔑…

ジェームス・ディーン物語

面白いドキュメンタリー映画だったが、彼がバイセクシュアルで、メジャーになるためにプロデューサーに体を提供した旨の件があり、少し驚く。男優でさえそうなら、女優となるといったいどうなるのか。映画界に権力を持つ人間の手がついていない女優、などと…

フライド・グリーン・トマト

「アメリカン・ニューシネマ名作全史3」の解説には、「魅力的な映画ではあるが、過去のエピソードに残酷に過ぎる部分があり、けっして心地よい映画とは言えない」とある。映画を心地よさの軸で評価するのは確かにその人の勝手だが、少なくとも映画批評家とい…

ジーパーズ・クリーパーズ

全然怖くないホラー映画。怪物が、人間らしいいでたちでいた最初の頃は、それなりに怖かったが、終り近くに蝙蝠のような羽根を出して空を飛び始めると、とたんに滑稽な存在に見えてしまい、ホラー度が薄れてしまう。最初から怪物が出てくるならそれなりの見…

ディーバ

郵便配達夫とオペラ歌手という道具立ては面白そうで、実際にパリやニューヨークで大ヒットしたとのことだが、見た限りでは、このメインのプロットと、売春婦組織や警察の腐敗や台湾の海賊版出版業者とかいう、賑やかするくらいのそのほかの道具立てとの組み…

ナチュラル・ボーン・キラーズ

原案がタランティーノだが、オリバー・ストーンの脚本でだいぶ変えられたらしい。性的虐待を受けたマロリー(ジュリエット・ルイス)の悲惨な生活を、ベタに描くのではなくボードビル風に映して見せるのが一興である。この映画を見た後、「ノーカントリー」を…

上海ルージュ

そのストーリー自体にさして感銘を受けなかった映画について、その「映像美」をあげつらうのは、映画という商業的興行の世界に組み込まれている映画評論家のラスト・リゾートなのだろう。一介の映画愛好家に過ぎない私が、定式化されたストーリーがむしろな…

ママの泣いた日

ハイ・ミセスの恋愛物だったら女優はせめてマーシャ・メイソンでも起用してほしい。ジョアン・アレンは、CIA部員の役などには似合いこそすれ、恋愛映画となれば、せいぜい恋愛とはまるで縁のないハイミスの教師か公務員という脇役どまりだろう。つまりハナか…

太陽がいっぱい

青年の美髪はイタリアの金色の陽光を含み、その青いスーツは陽光を眩しく弾いている。朝の眩しい光にホテルの一室で覚醒する異国の眠り。たくらみごとの快楽に透き通る青い瞳。徹底的に、外部というものだけが力を持つ映画というもの。トム・リプレーの犯意…

ラーメンガール

もうちょっとやりようがあるのではないか。殊勝な心がけのアメリカの娘に対してなぜか海兵隊の新米しごきのようなことをしてみせるだけのはなし。西田敏行、ハリウッド映画初出演で張り切りすぎたのか。ハマちゃんで全くよかったのに。 主演のブリタニー・マ…

パーフェクト・ワールド

この映画の一番印象的なシーンは、銃で撃たれた瀕死のブッチが草原に横たわっている冒頭のシーンだった。この時点では、観客はブッチが死に瀕していることは知らされていず、彼はまるでゆったりと草原に寝転んで昼寝しているようにしか見えない。最後に同じ…

敬愛なるベートーヴェン

何もかもが、あらゆる面で、少しずつ滑稽な映画ではないか。敬愛なる、というタイトル自体すでに噴飯物だし(親愛なる、か敬愛する、かどちらか)、エド・ハリスのベートーヴェンはやりようによっては悪くない線だが、結果的にはただの農民風の素朴な人物像の…

オリヴィエ・オリヴィエ

同監督の作品「僕が愛した二つの国/ヨーロッパ・ヨーロッパ」もそうだが「オリヴィエ・オリヴィエ」、というふうに同じ言葉を繰り返すタイトルには何か呪術的な力がある。この二作品はいずれも、分身、変身をテーマにしており、そのテーマ自体にそもそも呪…

太陽と月に背いて

思わず見たくなってしまう魅惑的な邦題がつけられた映画だが、ランボーとヴェルレーヌについて何の予断も持たない人間がこの映画を見たら、イヤミでひとりよがりな男たちの勝手極まる愛欲の話としか思えないだろう。そんな男を演ずるという意味ではディカプ…

秘密の花園

車椅子、愛、そして奇跡的な回復、というのは偏愛された、しかしそれだけ使い古された感動のパターンである。車椅子から立ち上がれる人間はまだいい。しかし世の中の真の不運、不幸というものは、愛情を捧げられたくらいでは、車椅子から立ち上がれないのだ。…

マジック・キッチン

香港製の十年遅れのトレンディードラマのような印象。いろいろ駆け引きがあり軋轢があって、ようやく恋が実って、さてこれからどうする ? 恋がかなって彼女がわがものになったらどうする ? なんだかそのあとは行き詰るような生活が待っているだけのような気…

ある貴婦人の肖像

ジェーン・カンピオン監督には、「エンジェル・アット・マイ・テーブル」で失望したが(リルケの詩への思い込みから過剰に期待していた)、その失望は正しい。この映画も何ほどのこともない、ただのボーバクとした映画である。 冒頭、雀の巣のような頭をした女…

或る人々

ときどき、日本語に翻訳しようとする希少な意志に遭遇する原題があるらしく、それはときどきというより明瞭に、概ね原題に商業的なインパクトが不足していると思われる場合に、その原題を変質させようとする営業的な意図との遭遇なのだが、この映画の場合、…

正義のゆくえ I.C.E特別捜査官

移民・関税執行局(ICE-Immigration and Customs Enforcement)。グリーン・カードが欲しいという弱みにつけこまれて認定官に体を弄ばれる役どころの、Alice Eveという女優、役どころからして美人女優と認定されているのだろうが、その肢体はともかく容貌は…