2012-07-01から1ヶ月間の記事一覧

怪物たちの舞踏会

監獄の警吏たる主人公ハンク(ビリー・ボブ・ソーントン)は、その父バック(ピーター・ボイル)に精神的に規制されている。保守的で人種差別的なバックに、家族という逃れがたい檻の中で支配されることによって。ハンクが父から受けた規制はそのまま息子ソニー(…

ノートルダムの鐘

次から次へと繰り出される唄また唄、その合間を縫って機関銃のように打ち出される言葉また言葉、たまたまガラガラの映画館で観たせいか、ひときわ歌手たちのまた声優たちの声が響いてきて、ひたすら声に圧倒され続けた観劇体験だった。 私の中にもフロロのよ…

殺意の夏

ストーリー自体はサスペンスとしてまずまずなのに、内心語りのナレーションで全て説明してしまうので、サスペンスにならない。それに、あーじゃにー、こーじゃにーと話が迂回するために(イザベル・アジャーニのしゃれです)、なんとなくフランス人の野暮った…

世界侵略 : ロサンゼルス決戦

太平洋戦争初期に日本海軍の潜水艦が米本土の西海岸を砲撃した。そのとき日本軍の上陸を恐れた米軍が、空襲と誤認して応戦に混乱を来たした。その、いわゆる「ロサンゼルスの戦い」を題材としていることは興味深いが、となると日本軍の延長線上に、地球侵略…

エアポート80

「 男はつらいよ」「ハリー・ポッター」はいざ知らず、シリーズ物というのは、回を重ねるごとに質が低下していくのが相場だ。本「エアポート」シリーズは、「バック・トゥー・ザ・フューチャー」同様、その劣化していくシリーズ物の典型で、4作目の本作はつ…

グランド・コントロール 乱気流

どうして人間はこんな毎回の綱渡りを強いられるような交通システムをこしらえてしまったのだろうか。管制官の職人芸的な仕事に感心する前に、そのことのほうが疑問に思えてくる。そもそも管制システムというものがあまりに脆弱過ぎるのに驚く。停電 ? 回路の…

冬の小鳥

この世には一定の悲惨さが常にあり、それは決して地上を去ることはない。その悲惨さに、分けても映画というものの中の悲惨さに、心を晦ますことは無益なことだ。私がこの少女だったら―という仮定も無益なことだが、―がむしゃらに生きて偉くなる。そして養護…

突撃

戦争映画ではあるが、戦闘を描く映画ではなく、軍法会議を描く裁判劇の要素が強くて、興味深かった。第一次大戦時のフランス軍の話であるせいか、卑怯で老獪な将軍たちの生態を遠慮なく暴いている。戦意高揚映画みたいな、立派な軍人ばかり出てくる映画より…

友よ静かに死ね

戦後のパリに実在した「シトロエン・ギャング」を描いた映画らしいが、アラン・ドロンが「小池さん」のようなパーマの頭をして、やたらに陽気なギャングに扮している。これは全く知らない映画だった。それにしても戦後の混乱期の話とはいえ、覆面もせずに強…

フェアウェル さらば哀しみのスパイ

フランス国家保安局DST、KGB、CIAの老獪な駆け引き。DSTと協同で情報を得ていたロシアの情報提供者グリゴリエフ大佐を、最後はCIAが自らのスパイを守るために売ってしまう。そのCIAのスパイとは大佐の上司でかつかつて妻の恋人でもあったKGBの高官だった、と…

ずっとあなたを愛してる

最後に意外な真実が明かされて衝撃を受ける、これは推理小説に限らず、物語/映画一般から受けることの出来る快感であるが、しかしこの映画では、子供を殺した理由を最後まで引っ張らずに途中で明かしたほうが良かったかも知れない。全体的に坦々としたタッ…

マグダレンの祈り

修道院というより、「ふしだらな」女性を収容する少年院のような機能を果たした、ダブリンのマグダレン修道院。性道徳というものに対して極めてニュートラルな原女性ともいうべき院生たち。彼女たちを支配するシスターが性的に潔癖である一方、神父の方は院…

レニングラード 900日の大包囲戦

兵糧攻めにあって餓死寸前だった幼い兄妹の命が、二人の女性の献身的な努力により助かるというのは実話らしいが、その実話がもたらすはずの感動が、なにか映画的構成のまずさで台無しにされたような気がした。ヒトラーとスターリンの扱いも軽薄で、そんな戯…

裸足のマリー

たかだか二時間に満たない時間の中で、一人の女子高生とともに、ブリュッセルからリスボンまでのオン・ザ・ロード・ストーリーを味わうことができる。これは小説などに較べて映画がもつ大きなアドバンテージの一つだ。 平凡な、どこにでもいる少女マリー。彼…

野望の系列

実に堂々たる政治映画であり、また広義の裁判映画(上院の委員会を舞台とする)なので面白かった。アメリカ人が今でもこれだけ公正であったのなら、TPPなどもまだ交渉の余地はあるというものだが、連中は内外で顔を使い分けるからね。 三権分立の理想。日本で…

ラルゴ・ウィンチ 宿命と逆襲

クリスティン・スコット・トーマスはともかく、肝腎の主演の男優に魅力なく、いい加減に見ていたら、会社乗っ取りのややこしい話で、結局良く分らずじまい。派手なアクションありセックス・シーンありの映画だが、ただ一つないのが「映画を見る喜び」というもの。…

ミュージック・ボックス

大戦中のハンガリーでのユダヤ人虐殺。「矢十字」というハーケンクロイツを模した様な記章をつけたハンガリー軍人の存在。ハンガリーやポーランド等の東欧諸国は、単にナチズムの被害者であると漠然と思っていたのだが、実はこういう加害者としての側面もあ…

デビル

アイルランド紛争の悲劇を題材とした映画。 人類の歴史では、民族の移動や人間の集団移住というものがしばしば行われてきた。多くはその土地で食い詰めた人間や、長子相続制度下の次男坊たちが、新天地を求めて移動したものである。だから移動する人間のほと…

フォース・エンジェル

主人公(ジェレミー・アイアンズ)が、たまたま遭遇したハイジャックで妻子を殺されてしまう。そのハイジャックの背後に、なにか大きな政治的陰謀があることを匂わせるのだけれど、その陰謀が何なのか良く分らず。CIA職員が身代金欲しさにロシア・マフィアと結…

裸の診察室

原題は多分「ブラウン運動」(brownian movement)というものらしい。しかし邦題は完全に只のポルノ映画。しかして映画の内容は、ポルノ映画だったらむしろそのほうが良かったというくらいのもの。一つ一つのショットが無意味に長すぎて、私などは到底我慢が出…

ボルサリーノ2

大昔に見た映画の再見で、内容はほとんど忘れていたが、敵役が滑稽なほど小男であることと、主人公の情婦がニューハーフ系の無骨なガタイをしているので興醒め、という初見の時の感想が、見ているうちに甦ってきた。 読んで面白い映画批評の一つに精神分析的…

帰郷

この映画は一度見ているはず、と思っていたが、どうも全く見ていなかったらしい。きっと車椅子に乗った傷病兵の話など見たくも聞きたくもなかったのだろう。反戦というスタンスがちょうど注目される時期だったのか、反戦と「愛」というテーマが、高い評価を…

パリより愛をこめて

タイトルはかの名作に対するオマージュの意味か。しかし、くだらなくつまらなく、全然オマージュになっていない。入道頭のでぶでぶトラボルタにもはや魅力はないし、ストーリーもテロリストを悪役とする単純極まる設定。だいたいテロリストに扮するアラブ系…

心のともしび

臆面もなく正統的にハッピーエンドで終ってくれる映画。失明した女性を救済する、というのはレイプ・ファンタジーの一種の変形に過ぎないが、本作はその救済のために、自ら医者になってしまう、というのだからすごい。ジェーン・ワイマンは登場したとき、てっ…

マーティー

この映画は、アカデミー最優秀作品賞、監督賞、主演男優賞(アーネスト・ボーグナイン)、脚色賞と4部門も受賞しているので、一度は見ておくべきだと思っていた。さらにカンヌ映画祭のパルム・ドールも受賞しているらしく、180度ほども評価基準の違う両賞を取…

シチリア ! シチリア !

「感動大作」というものにご用心 ! 確かに上映時間が二時間半とイヤになるほどの長尺なのは「感動大作」風であるが、この映画に「感動」する人が果たしているのだろうか。そもそも編集がニューシネマ風のぶつ切りでは、感情が充填されて感動というものに昇華…

バレンタインデー

10組のカップルのそれぞれのバレンタインデーを描く、というけれど10組が10組とも、女性が皆同じように能天気で同じように自分勝手なので、10組も見せてくれなくともいいと感じる。状況を違え、職業や年齢を違えてみせても、とどのつまり全部同じに見えるの…

旅路

デボラ・カーが出ているというので見てみたが、なかなか出てこない。彼女の作品は「黒水仙」と「めぐり逢い」くらいしか見ていないのだけれども、出てくればその顔は分るはずだ。バート・.ランカスターの元妻役がそうなのかと思い、こんな顔だったっけ、と思…

ザ・ウォーカー

核戦争後の廃墟となった世界で、デンゼル・ワシントン扮する男が持ち歩く、この世にたった一冊残された本とは、もちろん聖書なのだが、この聖書が「世界最終戦争」の原因になった本、としておきながら、最後は、再びこの世界に平和をもたらすためにその本が必…

ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女

ナチスを端的に怪物扱いし、ナチの父親に殺人と強姦を仕込まれた息子が、大量殺人者になる、という話を機軸にしている。その父は娘を犯し、その兄にも妹を犯させる、というのだからおぞましい。ドラゴン・タトゥーの女もそれとは別に自分の父親に虐待され、…