2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

名もなく貧しく美しく

この映画が描く、聾唖者夫婦に対する世間の冷たい風、つまり敗戦前後の日本人の民度の低さ、総体的に大衆というものの心根の貧しさが、如実にわがことのように思い知らされる映画だ。それにしても聾唖者に扮するに高峰秀子は可憐に過ぎる。高峰の美貌は聾唖…

それから

みたび言う、タイトルで内容を「説明」しようとするのはやめてくれ。小さな親切大きなお世話。 マルコヴィッチの要領を得ない応対振りに、話が進むに連れて苛立ちが募り、このオランウータン男の胸倉をつかまえて、さっさと核心を言えよ、と問い詰めたくなっ…

ザ・クリーナー 消された殺人/サンシャイン・クリーニング

「ザ・クリーナー」。まじめに最後まで見て、くーだらない ! と脱力してしまった映画。 ちゃんとしたキャリアのある俳優が存在感のない役で出ているので、実は彼が事件の本ボシだっていうことがすぐ分かっちゃう、というパターンだし、いい映画ならそれが分…

レイヤー・ケーキ

覚えなければならない人物名は3人までにしてくれないだろうか。7人以上出てくると覚えきれない、というか、そんな名前を覚えなくちゃならない義理はない ! 悪人でも金持ちは金持ち、金持ちが好きなことをしているのがこの世の中で、金持ちになる途中で大勢…

カウボーイ&エイリアン

西部劇になんと異星人が登場する !! しかし、よく考えてみればこれは決して荒唐無稽な設定ではない。 ヨーロッパで食い詰めて移住してきた清教徒たちによって、アメリカの先住民はことごとく殺害された。先住民を追い詰めるために、彼等の食料であり、衣料で…

母と娘

最近珍しい、アメリカ映画のいい感触が出ている映画だと思ったが、アメリカ/スペインの合作で、監督・脚本はガルシア・マルケスの子息のロドリゴ・ガルシアである由。そうするといい感触だと思った部分はどちらかというと、アメリカよりスペインの方、ラテ…

アメリカ、家族のいる風景

サム・シェパードとジェシカ・ラングで、タイトルに「家族のいる風景」とあるから、「カントリー」(1984)と同じような、夫婦愛を巡る話なのだろうという予見をもってしまったせいか、あまり面白くなかった。第一、家族といいながら、出てくるのは、行きずりの…

最愛の息子

子供に対し「愛」という名の迫害をもたらす恐るべきマザーの物語。このような母親は清教徒的な病的潔癖さという性癖をあわせもっていることが多いが、本編では、理想の「種」を探すためとはいえ、性的に放縦でもある女として描かれているので、より一層不気味で…

アリス・クリードの失踪

「誘拐」なのにわざわざアリス・クリードの「失踪」disappearanceとしているのは、Alice(真理)、Creed(信仰)の「消失」という含みがあるのだろう。登場人物三人の間の二つの誠実と信頼が文字通り消失するのである。邦題も知ってか知らずかそのまま訳してくれ…

1200℃ ファイヤー・ストーム

トンネル事故を巡る検事と弁護士、政府、会社等利害関係者の攻防を描くなかなかの力作。日本でも、日本坂(1979、死者7人)や北陸(1972、死者30人)という大きなトンネル火災事故があったので、題材としても興味深い。 この映画は、2000年オーストリアのスキー…

スラムドッグ&ミリオネア

アカデミー作品賞始め錚々たる賞を総なめにした高評価の映画らしいが、端的にエグ過ぎる映画で、こんな映画を作る金があったらその金をスラムに回せよ、と思わず言ってしまいたくなる。動物保護のドキュメンタリー映画で、カメラで撮っている暇があったらそ…

田舎者

「旅立ち」という言葉も、「愛と哀しみ」なみに日本で愛好されているのかと思い、調べてみたらあんまりなかった。楽曲などには溢れかえっているけれど。 「男の出発(だびだち)「 The Culpepper Cattle Co. 1972 「愛と青春の旅だち」 An Officer and a Gentl…

パーフェクト・センス

面白い発想の映画。 それにしても最近のベッド・シーンでは女優が胸を全開にしているのが多い。昔はそういう風に気軽に胸を見せる女優は二流の女優で、一流はせいぜいチラ見せが限度だったのに。この映画でも細身のエヴァ・グリーンの意外に豊かな胸が全開。…

シャンハイ

予想通り不実な映画だった。なにしろかの高山正之氏が「似たもの詐欺国家」と呼ぶ、アメリカと中国の合作という最悪の映画なのだから。作中で「南京大虐殺」が言及されるに至ってこの映画に対する不信がピークに達する。しかしここで卓袱台をひっくり返せば…

わが家の楽園

邦画「わが家は楽し」(1951)の原案は脚本家田中澄江で、彼女と柳井隆雄とが協力して脚本を書いたとされている。この脚本の元歌が戦前に作られたこのアメリカ映画であるのは間違いない。戦後まもないころ、このように外国の映画を「アレンジ」して国産の話に…

わが家は楽し

貧困の詩学。名声高き画伯。謎の資産家。悪徳不動産会社社長。森永製菓の人事課長とその糟糠の妻。結核病みの青年。売れない女画家。1950年代の日本、既にこれだけの格差社会だったではないか。格差のスペクトルの両端に成功した芸術家と売れない芸術家がい…

ムーラン・ルージュ

三文作家と高級娼婦の悲恋を描くミュージカル。なぜ性愛から区別されて恋愛というものが存在しなければならないのだろうか。性愛へのアクセスが希少な修道院において、性愛に代るものとして発明されたのが恋愛、ということなのか。しかし恋愛が発明されると…

来たりて楽園を見よ

いくら「もののあはれ」に親しむ国民性とはいえ、「愛と哀しみ」という言葉が冠せられた邦題の映画が多すぎる。 愛と哀しみのボレロ Les Uns et Les Autres 1981年 フランス 愛と哀しみの果て Out of Africa 1985年 アメリカ 愛と哀しみの旅路 Come see the pa…

スリーピング・ビューテイー 禁断の悦び

エミリー・ブラウニングの剥きたての果物のごとき裸体が見られるが、話としてはあまり面白くなく、最後まで見るのには努力が要った。クレジットにはなかったが、これが川端康成の「眠れる美女」によることは間違いないらしく、そこに例のカンピオンが一枚噛ん…

マレーナ

少年の日の淡い初恋を描くなどとされているけれど、見てみたら年上の女性に対する少年の憧れなどというカワイイものではなく、むき出しの男性の肉欲に翻弄される戦争未亡人の話だった。なにしろヒロインの未亡人が弁護士の愛人になったりナチスや米軍の慰み…

クレアモントホテル

原作エリザベス・テイラー(もちろんかの女優ではなく、「エンジェル」の作者)。善良な、好意にあふれる青年を見ているのは気持ちが良い。作家志望の青年と言えば善良な男と相場が決まっているが、この十人並みの容貌の青年(ルパート・フレンド)が、その善良…

北京の55日

「義和団の乱」を描いたこの映画は、上映時間三時間という正統的史劇の体裁をとっているが、史実を再現しているというより、架空の国の架空の歴史を題材にした冒険活劇と考えたほうが良い。伊丹十三紛する実在の人物、芝五郎中佐を脇役の扱いにしているが、史…

ある子供

父権社会の抑圧を解き、女性たる母親を抑圧から解放する。その結果父親は不在となり、母親は自分中心となる。あまつさえ、父親に頑張る理由がなくなったため、生産性も下がり、社会は貧困化する。その結果、彼等の子供たちは一から手探りで生きることを始め…

12人の怒れる男

1957年のオリジナル映画(シドニー・ルメット)のロシア版リメイクだというので、どれどれと見てみたが、無駄な会話多く、声が汚く、唾を飛ばして舌戦をかわす様にゲンナリして途中で放棄した。まともなリメイクではあるのにどうにも見るに耐えなかった。 日本…

アウトレイジ

なぜ日本人はヤクザに扮している時だけしかリアルに見えないのかというのは謎だが、ここまで悪人ばかりだとさすがにそのリアルさが消滅してしまうようだ。リアルではないがとにかく一種の迫力はある。海上保安庁職員などはこの映画を見れば少しはウサが晴れ…

犬と私の10の約束

冒頭の、母親が病死するところはあっさり流されたので、これは邦画にはそして愛犬ものには珍しく、センチメンタリズムを免れている映画かと思ったが、最後に犬が死ぬところではやはりベタベタのお涙頂戴になってしまった。映画の中で軽いコメディー・タッチ…

Marley & Me

犬を愛するのもいいが、少しはしつけというものをしたらどうかと思う。新聞のコラムニストで、いい暮らしをして、家族に恵まれて、それで犬が病死(限りなく老衰死に近い)したくらいが、一体なんだというのかな(一応私もれっきとした愛犬家です)。 映画自体が…

キャリー

音楽の高まりと共にキスが交わされるこの映画は、2012年の今日ではもう考古学的に古い映画の部類に入る。ワイラーだからなんとなく原作に忠実に映画化しそうなものだが、調べてみるとかなりの相違点がある。総じて現実的な原作にくらべ、映画的ロマンを相当…

闇討ち

女優たちのアクションと特撮はそれなりに面白いが、結局は脳内幻想だとあらかじめ知らされているので、別にスリルがあるわけではない。闘争の勝敗が未知のものとして宙吊りにされている訳ではないから、どんなに彼女たちのアクションが超人的でも(超人的であ…

潜水艦

陰惨な映画。「ドグマ95」なる映画の自然主義運動の産物だから致し方ないにしても、憂鬱な思いで画面を眺めながら、このような悲惨な境遇の人間になぜ付き合う必要があるのか疑問に思った。退屈している人間がしばしば人間の悲惨さに興味をもつということは…