2012-01-01から1ヶ月間の記事一覧

フィールド・オブ・ドリームス

奇跡的に可能だった、悠久の、魂の救済の物語。 最後に主人公の父親が若い青年として現れるシーンでは思わず涙がこぼれた。 そんなことありえない、というつまらない異議は、実際に父親が投げ返したボールが、ずしりとグローブを打つ手ごたえの現実性の前に…

ラスト・ブラッド

人気劇画の実写版らしい。ヴァンパイアものらしいので二の足を踏んだが、韓国映画と思いきや香港映画で、ワイヤーアクション系。それなりに見せるが、鬼=悪と人間=善との戦い、悪の排除による世界救出という、恐ろしく古いフレーム内の話に過ぎない。いつま…

僕と彼女とオーソン・ウェルズ

最初は、えーこれがと思ったクリスチャン・マッケイだが、だんだんとオーソン・ウェルズを髣髴とさせる人物に見えてくる。このとんでもなく我が強く気まぐれで好色な男が、マネジャーや役者や大道具小道具やを丸めたり賺したりしながら、結局自分の思うとお…

シャロウ・グレイヴ

「トレィン・スポッティング」と同監督、同主演ユアン・マクレガーの映画。 バイオレントでややアブノーマルで、それがハリウッド的映画文法に拠っていないところが面白い。女がボコボコにされる「トゥルー・ロマンス」でも、変態性欲者が出る「パルプ・フィ…

ザ・バンク 堕ちた巨像

どうして邦題にはこういう説明的なものが多いのだろう。余韻に美を求める俳句民族の末裔とは思えないこのセンス。 国際金融業界の実態を知るのに何の役にも立たない映画。そもそもがマネー・ロンダリングというケチな犯罪に手を染めて告発されたBCCI事件がモ…

マネー・ゲーム 株価大暴落

金融崩壊以前には、アメリカの証券取引監視体制はかなり厳しいものという印象があったが、2000年のこの映画で早くもそれが穴だらけであることが明かされていた。どの世界にも穴というものはあるものだが、アメリカの証券市場という狭い世界にとどまらず、ま…

アザー・ピープルズ・マネー

タイトルへの、この英語の傍若無人な侵入ぶり。「リバー・ランズ・スルー・イット」に至っては、名詞のみならず動詞や前置詞にまで侵入している。 ラストの演説シーンがなんと言っても印象的である。片やグレゴリー・ペック。背が高くハンサムで(だいぶ年を…

キャピタリズム マネーは踊る

ムーアの映画を見ていつも思うことは、相手を茶化しながら、公けの映像の中に引っ張り出そうとするその方法がはたして有効だろうか、ということだ。見ている分には面白くあっても、彼の告発が一向に有効でなければ、それはただ彼自身のためのパフォーマンス…

ウォール・ストリート

世界金融危機を経験した、というよりそれを引き起こした張本人のアメリカが、「ウォール街」の続編を作った、ということでいやが上にも期待は高まったが、まったく面白くもない映画になってしまった。前年のマイケル・ムーアの「キャピタリズム マネーは踊る…

モンスター

この上なく悲惨極まる話。幼年時に受けた祖父と兄からの性的虐待、アル中の母親の蒸発、精神病の父親の自殺。弟妹を養うためにやむなく体を売ったが、感謝されるどころか疎まれ蔑まれる。その後娼婦として生きるが、身を守るために客を射殺したことがきっか…

まあだだよ

百輭の天衣無縫振りを描いてそれなりに面白いが、俳優が実物より貧相、というのではいけない。松村達男の百輭先生は似ているとは思えないし、写真で見る百輭よりはるかに汚い。ここまでメーキャップして老醜を見せなくともよいという気がした。もっとも黒澤…

かもめの城

この映画は永い間未見のままだったが、その間ずっと私の眷恋の映画だった。ビデオももちろんDVDもない古い映画なので、見ることが不可能だった。そして私もそれほどこの映画を見ることに熱心ではなかった。窓辺の風に髪をなびかせて海を見ているパトリシア・…

シベールの日曜日

フランス版ロリータ。製作年は「ロリータ」英国版と同年であるが、かなり先行的に「ロリータ愛」を扱ったもの、という位置づけができるのではないか。かなり早い時期の、監督と観客の共犯事例として。作中のシベールは12歳、それを演じたパトリシア・ゴッジ1…

ロリータ

英国製のこの映画は2時間33分と長い。もう少しコンパクトにまとめてくれないものかと思う。「ロリータ」ってこんなつまらない話だっけ、という感想を持ったのは多分にその長さのためもある。米国製、ジェレミー・アイアンのものはそれなりに面白く見たけれど…

熱いトタン屋根の上の猫

最後に主人公が「父親に愛して欲しかった」と言うに及んで、また、欧米に根強い粘着的父子関係ものかとゲンナリした。しかしこの父子間のみならず、この映画の全編、登場人物の誰もが誰も愛していない。ヒロインもまたその夫を愛してなどいず、自分が愛され…

渇いた太陽

「世界崩壊の序曲」を含めて、その出演作のほとんどを見ているから、ポール・ニューマンは好きな俳優だったのだろうが、このところその演ずる男性像がだんだん嫌いになってきている。特に初期の頃の映画を見ると、その傾向は顕著だ。彼が演ずる人物像は、超…

シスター・スマイル ドミニクの歌

この映画も「尼僧物語」と同じく、ベルギーの修道院が舞台で、時代はまさにコンゴ独立目前の1950年代末である。そしてシスター・スマイルもまた、コンゴでの救援活動を志す。実際のジャニーヌは敬虔なキリスト教徒だったらしいが、この映画で見るジャニーヌ…

尼僧物語

ベルギー国の尼僧がコンゴに医療支援に行くことが当然のことのように描かれているが、考えてみればコンゴはベルギーの植民地だった。もともとはベルギー王の私有地だったコンゴはその王の圧政の下で苦しんだ。その後ベルギー国有となると、表面上の圧政は払…

サウンド・オブ・サンダー

以前見た「バタフライ・イフェクト」とかいう映画と同程度にひどい三流のSF映画だった。こんなものを見にわざわざ家族を引き連れて夜中に出かけていったことを後悔した。レイ・ブラッドベリの短編「いかずちの音」を元にした映画らしいが、ウェルズの原作に…

沈まぬ太陽

「うまく」生きることと、「まともに」生きることとの落差。我々は永遠にまともにかつうまくは生きえない条件下にあるのか。しかし、この映画で、うまく=悪人、まとも=善人として、特に前者がいかにも悪役面で出てくる(特に、国民航空取締役八馬/西村雅彦)…

オデッサ・ファイル

原作を面白く読み、この映画も昔面白く見たが、再見してみると、主人公のジャーナリストが追跡する元ナチスSS将校が、実は戦争中に彼の父親(独軍将校)を殺しており、彼の追求の情熱の源泉がユダヤ人問題という「公憤」ではなく、むしろ父の仇討ちという「私…

ウォーリー

意外に広がりのある世界が展開される物語だが、このような地球の命運を語る映画の場合、昔なら、義理でも東洋人やアラビア人やらを地球人の一員として出したものだが、この映画では、地球文明の生き残り=欧米人(英語人種)として、その余はすっぱり捨像してい…

嵐が丘 3

1939年のオリジナルと1992年のリメイク版の間にも、「嵐が丘」は何度か映画されている。以下はその一覧であるが、いずれも未見。機会があれば是非見てみたいものだ。◇1953年 メキシコ ルイス・ブニュエル監督 舞台をメキシコに設定。ヒースクリフはアレハン…

嵐が丘 2

映画雑誌の背表紙で、丘の上に立つヒースクリフとキャサリン、ローレンス・オリヴィエとマール・オベロンの写真を見たときに、私はそれだけでこの映画に恋焦がれるようになった。気恥ずかしいが、「恋に恋する」という現象だった。ほぼ同じ時期にやはり雑誌…

嵐が丘 1

直近で見たのは、1992年のリメイク版。レイフ・ファインズ主演のものだが、彼の扮するヒースクリフはそれほど魅力がない。とはいえ、誰が演じてもそもそもヒースクリフが魅力ある人物であるわけがないのだが。キャシーに扮したジュリエット・ビノシュはポピ…

白いリボン

これもまたミスティフィケーションに満ち満ちた映画だ。良く分からない、とまたまた言わされるのも癪なので、登場人物の一覧表を作り、二回目はメモを取りながら見てみた。この映画で起こる不可解な事件で、少なくとも加害者が明確でないのは次の三つである…

隠された記憶

だるい映画。だるすぎて途中寝てしまったので、物語の鍵になるビデオテープの送り手が明らかになるシーンを見逃したのかと思い、そのあたりを何度も見直したが分からない。DVD付録の監督インタビューを見たら、人を食ったような顔をした監督が「観客の解釈に…

ピアニスト

キテレツな映画。音楽映画のつもりで見たので、異和感も一入だ。ウィーン国立音楽院のピアノ教授エリカ(イザベル・ユペール)。その社会的地位は相当に高いはずだが、しかしそれはピアニストとしては敗残者であることを示すだけ。娘がコンサート・ピアニスト…

ローズ家の戦争

特に理由もなく夫(マイケル・ダグラス)を嫌悪する妻(キャサリン・ターナー)は、絶対的他者としての女性のように映画に描かれる。物語半ばにいたると、彼女の嫌悪の絶対性が観客にも充分伝わってきているので、マイケルがキャサリンに対して「愛しているよ」…

青いパパイヤの香り

寡黙で耽美的な映画。映像をしてすべてを語らせるという意思が全編に張りつめており、ゆるぎない映像美に溢れたシーンが隙間なく点綴されている。 貧しい娘が下女として奉公するうち、雇い主に見初められて結婚し、階級のランクアップを果たすという大筋は、…