ハピネス

 奇妙な映画。妙に常識的感覚から逸脱した映画。この微妙な逸脱振りは「ホテル・ニューハンプシャー」や「ガープの世界」に共通した、いわば「文学的」な逸脱だ。性という恐ろしい爆発物を抱えながら、その暴発の合間合間にわずかに心の平静を盗み、そしてそれを幸福と呼び続けている生活。少年愛を心に秘め、そして避けがたく確信を持って快楽を得んがために少年を犯し、破滅していく中年の精神分析医。射精がいまだ訪れないことを不安がるその息子。(この子役の演技は子供とは思えぬほど奥深い。何しろpervertな父親と対決する息子の役なのだから)。家庭の主婦役に骨の髄までなりきったしまったその妻。インド系の愛人を振って自殺させる一方で、箸にも棒にもかからぬ不良ロシア人に抱かれてしまうその妹。作家として成功しても心むなしく、性的な電話をかけてきた妄想青年を部屋に導きいれる長姉。そしてその妄想青年を恋焦がれている、ダイエットできない女性。彼女は実は自分を犯した警備員を殺害し、ばらばらに解体したその死体を冷蔵庫の中にしまっているのだ。つまりはアーヴィングの原作映画同様、それで ? という感想が残るだけの映画で、わずかに自分の性的偏向はまだまともな部類だなと、観客を安心させる効果はある。

1998年 米 トッド・ソロンズ