チベットの女 イシの生涯

 劇中、毛沢東の肖像写真が一度だけ出るが、それ以外は中国共産党の存在は気配すらない。ラサの領主を亡命に追いやり、農奴を解放した共産軍の姿がなぜ出てこないのか。ダライ=ラマと中国政府との対立など喧伝されるほど激しいものでもないのだろうか。中国人の監督とチベット人の女優とによって出来たこの映画を見るとそのような気もしてくる。イシが苦しんだのは中国との政争のせいではない。それは革命の前後を通して変わりのない貧困のためであり、また愛のためである。男を三人も愛したのだから、それ相応の苦労をするのは当然だろう。しかし、貧困の中では労働以外にすることといえば、仏教の修行をするのでなければ、やはり愛以外にないのも確かである。

2000年 中国 シェ・フェイ