フェィク

  アル・パシーノの演技はゴッドファーザーⅢ以降全然変化がないように見える。アクが強く、ときにヘキエキさせられる。この映画ではうだつの上がらない老ヤクザに扮しているが、こういう風采の上がらぬ役どころに、俳優の魅力で少しのキラメキを付与するのを眺めるというのが、映画を見る楽しみの一つなのだが、その楽しみは得られなかった。「ヒート」のアル・パシーノには幾分それが感じられたが、やはりそれは刑事という役どころに拠っている部分が大きいのである。それにしても彼も老けたものだ。かつては日本の流行歌の歌詞にもなり、女の子の心さえ奪った二枚目俳優の面影は完全に消失した。海岸で昼寝をするショットで、彼の老残の顔が死人の顔のように見えたので愕然としたくらいだ。
 ストーリーは平板極まりなく、実に退屈で面白みに欠ける。FBIの覆面捜査官の実話だという割には、正体がばれるかばれないかというスリルは微塵もない。日常茶飯事のように殺しを繰り返すヤクザと生活を共にしているのだから、明日はわが身という緊迫感が捜査官には強いられるはずだ。それが全然伝わってこない。この映画は無論捜査官と老ヤクザとの情感の交流に力点が置かれているので、それは当然と言えば当然だが、死体を鋸でバラバラにするというグロテスクなシーンを挿入している割には、それが単なる無法者たちの、異次元の世界の出来事に思えるだけである。加えて仕事未亡人の妻とのお決まりの行き違いの挿話にも別に感興を催すものはないとなると、全くいいところのない退屈な映画で、ただジョニー・デップの美男ぶりでも眺めているしかない。そのほか、この映画にはマイナスの要因が強すぎるのである。ストーリー展開に大して関係がないような日本食レストランでの暴行シーンで、化け物のように厚化粧した日本人や、あくまでも靴を脱ぐことを強要する変に頑なな日本人の描き方も立腹ものだが、吊目の東洋人とかなんとか罵りながら、ボコボコにしてしまうシーンは目をおおわんばかり。「この間の戦争で、どっちが勝ったと思ってんだ ! 」これは、真正のヤクザの方のセリフではなく、ヤクザに扮したFBI捜査官の方のセリフである。念のため。

1997年 アメリカ マイク・ニューウェル