県庁の星

 当初、人間関係があまりに剣呑なのは、別にスーパーの店員が役人に反感を持っているわけでもなく、民間企業との人事交流というプロジェクトを馬鹿にしているわけでもない。ただそれは、後々の宥和を効果的にするためにそうしているだけである。スポーツ映画や音楽映画で、最初にあり得ないほど弱い人間や音感すらない人間が出てきたりする手口と同等だ。柴咲コウがいくら織田裕二に冷たくしても、最終的には仲良くなるのが知れてしまう。つまりは水戸黄門であり忠臣蔵でありというふうに日本のドラマの底流にある手法の踏襲である。そこまでこちらの心を操作しなくとも、ちゃんと感動してやるよ、と言いたくもなる。もっと自然につまりもっと現実的な状況設定から入ってなおかつカタルシスをもたらす劇的手法というものがあるはずだ。最後の、知事のあっけない変身も、話として少し厚みがなさ過ぎる。

2006年 西谷弘