フロム・ヘル

 劇中、娼婦とカトリックの教会で結婚式を上げ、子供まで設けたクラレンス公<アルバート・ヴィクター>が出てくるが、公は「英国王のスピーチ」のジョージ六世の伯父に当たる。即ち父君ジョージ五世の兄なのだ。公は、かつて切り裂きジャック本人に擬せられたこともあるが、概して英国民は王家の性道徳には寛容であるらしい。
 この映画では、ヴィクトリア女王の主治医にしてフリーメーソンの構成員たるウィリアム卿(イアン・ホルム) を切り裂きジャックだとしている。女王は孫のクラレンス公の一件への対処と揉み消しを側近に指示したが、その側近もフリーメーソンであり、話は主治医につながる。クラレンス公と相手の娼婦は拉致され、公は多分幽閉され、娼婦はロボトミーで廃人にされる。二人の間には子供がいたが、幸い王室はこれを感知せず、たまたま仲間の娼婦に預けられていたために難を逃れる。後は結婚式に立ち会った仲間の娼婦たちが問題である。ウィリアムはその証人たる娼婦たちに必要以上に残虐な処刑を施す。クラレンス公に梅毒を染した娼婦どもへの憎しみもある。彼は現役の医業から引退して久しく、かって外科手術で鳴らした自分の技量をもう一度試す機会でもある。彼は自分の手術用具一式が入った鞄を携え、密かに夜の娼窟に向かった。・・・。
 酸鼻な虐殺の場面を、観客の目を慣らすように徐々に見せていく。最初はほとんど見せずに仄めかしだけ。次第に死体の血の色が濃くなっていき、終わりの方では喉を掻き切るシーンまでも見せるという風に。

2001年 米 アルバート・ヒューズ、アレン・ヒューズ