戦場のピアニスト (3)

 この映画のサントラ盤のCDの解説に、すこし気になることが書かれていた。それはシュピルマンがバラード1番を弾いた廃墟の場面で、多分ホーゼンフェルト大尉が弾いているという設定になっているベートーヴェンの「月光」が流れて来たときに、なんともいえないゲルマン的なものが感じられたという話である。ショパンの音楽とは相容れないもの、ユダヤシュピルマンとも本来は相容れないもの。感覚的にはあまり納得がいった話ではなかったが興味深い。ワーグナーならともかくベートーヴェンにまでゲルマンの刻印が読み取られるのか。
 「リボルバー」というギャング映画だったと思うが、ギャング同士の壮絶な殺戮のシーンがあり、その背後に流れていた曲が「月光」だった。静かだとばかり思っていたこの曲が、妙に流血のシーンにマッチしているのに驚いた。そのことと少しは関係のあることなのか。
 とはいえ、シュピルマンとホーゼンフェルトとの間には、現実に人間としての関係が成立していたのだから、その実話を幾分脚色した映画の中のベートーヴェンの曲に何か懸絶したものを感じ取るというのはあたらないだろう。バレンボイムも故国イスラエルワーグナーを演奏したし。そのバレンボイムに抗議をしたイスラエルアメリカに影響力を行使するイスラエルの方こそ、殺戮の音楽に近いところにいるのは間違いない。

2002年 仏・独・ポ・英 ロマン・ポランスキー