旅立ちの時

 リバー・フェニックスがピアニストを目指す少年に扮する映画だが、彼は家にピアノが無いので紙の鍵盤で練習している。実際に音が出るロール・ピアノならともかく、文字通りただの鍵盤が書いてある紙なので、あれで練習になるのかなと思ったことだった。漸く音楽教師の家に出入りを許されて、本物のピアノに触れられるようになる。
 この映画の情報があまりないので、原題のrunning on emptyで検索したら、ジャクソン・ブラウンの同名の歌も引っかかってきた。これは実に嬉しい結果で、実はこの歌手をずっと探していたのだ。大昔、「ベスト・ヒットUSA」で何回か聴いた曲が、このところ耳に甦ってきて、その曲名も歌手の名前すらも思いだせずにいた。その歌手がジャクソン・ブラウンで、こんな大物の歌手の名を知らずにいたことは迂闊だったが、この映画のおかげで再会することが出来た。曲名はFor America。歌詞を見てみたらバリバリのベトナム反戦歌だった。この映画もフェニックスの両親が反戦運動家で、FBIから「テロリスト」として指名手配されているという設定だから縁がある。
 ジャクソンのrunning on emptyは1978年のヒット曲、for americaは1986年。この映画は1988年だが、ジャクソンの歌にインスパイアされているのは間違いない。しかしベトナム戦争の反省も空しく、アメリカは再びみたび戦争に赴く。アメリカの良心の目覚めを希求するような歌手ももう現れないだろう。

1988年 米 シドニー・ルメット