プルーフ・オブ・マイ・ライフ

 原作が劇の台本と聞いてイヤな予感。案の定、動きが少なく、ただセリフのみが延々と続く映画。戯曲を原作とする映画からは、たいてい映画特有の話の展開のスピード、高速の場面転換などという映画のメリットが消失してしまうものだ。あとは交わされるセリフを味わうしかないのだが、本作ではこのセリフも、いがみ合い怒鳴りあう西欧人の自我のうっとうしさを感じさせるだけのものに過ぎないように思われた。原作は高い評価(ピュリッツア賞その他)を受けたものらしいが、映画としては大いに魅力に欠ける。
 歴史的な数学上の証明を成し遂げたキャサリン(グウィネス・パルトロウ)は、それを信じない恋人のハル(ジェイク・ギレンホール)を詰り、その許を立ち去りもするが、人を責める前に、自分が他人から信頼を得るほどの安定した人格を有していないことに対する反省は露ほどもない。ただ、この劇をしめくくる必要上ようやく最後になってその徴候を見せはするけれど。
 「ジュラシック・パーク」(1993)の数学者イアン・マルコム博士は魅力的だったし、主人公が天才的数学青年である「グッドウィル・ハンティング」(1997)や、数学者の狂気そのものをテーマにした「ビューティフル・マインド」(2001)同様、これらの映画に引き続いて、数学の魅力に何らかの形で触れられるものと期待したが、老数学者に扮したアンソニー・ホプキンスの熱演にもかかわらず、その魅力は伝わってこなかった。歴史的な証明というその証明の内容が全く語られないのだから、それもいたし方ない。何も「π」(1997)ほどにディープな数学世界を示して欲しいわけではないが。一方、我が「博士の愛した数式」(2006)は、その原作小説同様、数学に関しては、ただのディレッタンティズムに過ぎない知識の羅列にとどまっており、本作とはまた別の意味でつまらない。

2005年 米 ジョン・マッデン