犬と私の10の約束

 冒頭の、母親が病死するところはあっさり流されたので、これは邦画にはそして愛犬ものには珍しく、センチメンタリズムを免れている映画かと思ったが、最後に犬が死ぬところではやはりベタベタのお涙頂戴になってしまった。映画の中で軽いコメディー・タッチで描かれる大学病院の学内政治的内情は(その一端についこないだ○○医大でふれているだけに)、まったくそれを批判する風でもなく現状肯定的になっているので腹が立つ。主人公こそそれに抗議して辞職するのだけれど、つまりそれは改革ではない。開業医という手がある特権者の限定的方策である。そこから犬を家族と見做すヒューマンな生活を見せられても、高額な流通商品であることから来るペットの苛刻な現状が忘れられるわけではない。
 ペットショップでは、生後3ヶ月過ぎの中型・大型犬が売れ残っている場合、餌を制限して大きくならないようにしているらしい。「子犬」という外見がなければ売れないからだ。彼らがその少ない餌をどんなにガッついて食うかは消費者の目からは隠されている。次はディスカウント販売に回される。それでも売れない場合はどうなるのか。もう想像もしたくないところだ。公式には、前記ディスカウントの他に繁殖に回すとか無償譲渡等で捌いているとされるが、従業員やその親戚縁者の数には限りがあるだろうし、未だにペットショップからタダで手に入れた人の話は聞いたことがない。ペットショップに、ブリーディング以前に購入を予約させる制度でも導入させない限り、犬を巡るヒューマンな映画をいくら見せられても、一方に身勝手な人間の行状があるので、心地よく感動することなどできないのである。

2007年 日本 本木克英