バレッツ

 出だしにはいいアクション映画の感触があったが、ストーリーのあらかたが見えてくると、後はただ陰惨さだけが鼻について楽しめない。やたらに家族の愛が強調されるシーンのあとには、必ずその家族が殺されるか暴行を受ける場面を見せられる。このあくどさが心底イヤになる。結局、物語というものにはこのような「マッチポンプ」が必然的に組み込まれてしまうのだ。22発も弾を喰らってピンピン生きているというのは実話らしいから文句がつけられないが、熱湯を浴びせられて火傷一つしないというのはどういうわけだ。製作がリュック・ベッソンだというけれど、こんな同工異曲の映画ばかり生産してどこが面白いのだろう。元が実話であるから、内容の没倫理性(というよりむしろ出来合いの安手の倫理)に製作者は無答責ですむ。しかし、何も実話に頼らなくとも、<ここで愛の尊さを訴えるために、人でも殺しておくか>、というような「お話」を人間はせっせと作り続けているのだが。つまらない話でも、一人でも光る役者がいれば映画として見れるのだが、ジャン・レノは既に擦り切れているし、本来はその役足るべき女刑事(マリナ・フォイス)もまったくその重役は果たせていない。

2010年 フランス リシャール・ベリ