孤独な場所で

 ハンフリー・ボガートの、「カサブランカ」の後、「アフリカの女王」の前の作品。
 ボガートは境界例的性格異常の脚本家に扮する。殺人の嫌疑をかけられて関係が破綻する一組の男女の悲劇を描くが、そもそもその嫌疑がなくとも衝動的で暴力志向の強い男のために関係は破綻していただろう。オリジナルの脚本は製作中に改編されたらしいが、異常性格を演ずるという俳優ボガートの、ないしレイ監督の技術志向のために、ボガートは実は殺人者かもしれないという、娯楽映画にとっては必要な、オリジナルシナリオにはあったかも知れないサスペンスは、どこかに消えてしまった。最初から観客はボガートが犯人だなどと思いもしない。彼がその後異常な性格をちらちらと見せだすに至っても、彼がその犯罪を犯せないことは明らか、という状況設定になっている。後は八の字眉の、唇を濡らしたボガートが暴力を振るうのを見せられるだけとなる。

1950年 米 ニコラス・レイ