小さいおうち

 心動かされた映画。女優陣に比べ、主役の男優(吉岡秀隆)が、ちょいとショボイけれど。なんてったって、松たか子と不倫するからには、「満男」クンではなく、それなりの男優に演じて欲しいところ。いくら丙種合格の青年という設定だからって。妻夫木聡は、狂言まわしだから別として。
 ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を取った黒木華(はる)の、その純朴さの演技に心ほだされる。年老いてからの彼女(たきちゃん)の役をやったのは、「満男」くんのおかあさん「さくら」の倍賞智恵子。そのやつれた老婆が彼女だとは最初気づかないでいたが、もしやと思い、そう思ってその声を聞けばまさしく彼女。その青春の盛りには「月よりの使者」を朗々と唄っていた女人の、その小さく老いた姿に感無量。
 ちいさな赤いおうちが、空襲で焼かれてしまうシーンには胸が張り裂ける思いがした。ベルリンの観客には、日本の戦争の実相がちゃんと伝わったのか知らん。妻夫木が、「南京大虐殺」について、日本人の誤解を代表した発言をしており、映画内ではもちろん、その発言が否定されることはなかったので。やはり、日本人は声高に異議を唱えるなどという下品なことはようできない。そもそも政治映画ではないし、現代の若者の認識と、実際にその時代を生きた人間の感覚を対比させる、というのがこの話の主眼の一つなんだけれど、そんな微妙なものが全く伝わらない人たちがいるのだ。シナの人がこの映画を見たら、「ほれ見ろ、日本人が自分で言っているじゃないか」ということに間違いなくなる。そんなことを考えると、黒木華にほだされている場合じゃないな、と苦い現実の前に引き戻される思いだ。

2014年 日本 山田洋次