次郎長三国志

 待てば文庫の日和あり(ハードカバーの新著は高いし嵩張るしで、なかなか買えないが、待っていればいずれ文庫になること)。
待てば衛星放送の日和あり(DVDは高いので、中古でもないかぎりなかなか買えないが、待っていれば衛星の名画劇場でやってくれること)。―まして邦画のDVDは高い。 
 「次郎長三国志」のDVDを買うか買うまいかしばらく悩んでいた時期があった。2008年の角川映画で、次郎長が中井貴一となれば、これは見たくなる。そうこうしているうちに有料放送で見る機会があり、見終わった後、いやDVDを買わなくて良かった、とほっとした。それくらいのヒドい出来の映画で、辛うじて見れるのは中井貴一と大政に扮した岸部一徳だけ。他は見るべきものなし。特に森の石松がヒドイ。演るに事欠いて温水洋一だ。石松は別に二枚目でなくともいいが、少なくともイキでなければならない。温水のどこがイキか。歴代の「次郎長三国志」の石松役を見てみると、1950代の東宝映画シリーズでは森繁久弥、1960年代の東映映画シリーズでは長門裕之が演じている。悪くはないが、もう一つピンとこない。やはり1957年の大映映画「森の石松」の勝新太郎に石松役は止めを刺すのではないか。このほか映画ではエノケンや堺俊二(子息の堺正章はテレビドラマで石松に扮している)フランキー堺などの喜劇系が扮し、二枚目では勝新の他は中村(萬屋)錦之介くらい。温水は喜劇系からの起用なので文句を言ってもしょうがないが、喜劇系というよりただのダメ男系で見るに耐えなかった。それに蛭子能収が出ているのはどういうつもりなのだろう。面白がって出しているだけなのだろうが、演技も何もできないこの男のおかげで、少しはあった物語の緊張感が一気に緩んでしまう。鶴田浩二の次郎長でも見れば口直しになるかも知れないが、DVDが高すぎて買う気になれない。早く衛星かなにかでやってくれないか。

2008年 マキノ雅彦(津川雅彦)監督