ケイン号の叛乱

 ハンフリー・ボガートってなんで「カサブランカ」の主役になれたんだ。どう見ても風采の上がらないただのおっさんだし、役柄がこんな嫌われる上官の役では、なおさら貧相さが目についてしまうだけだ。などと思ったりしていたので、最初に見たときは途中から眠ってしまった。日にちを置いて気を取り直してもう一度見たのだが、途中までは、あまりに古い映画だし狂言回し役の男女のカップルもあまり知らない俳優(ロバート・フランシス、メイ・ウィン)だし、何よりボガートが全然かっこよくないので、見終えたら即行で消去するつもりでいた。ところが後半、ホセ・ファーラー演ずるグリンウォルド検察官が登場すると俄然面白くなり、副長にかけられた叛乱罪の嫌疑を見事に晴らすにいたる弁護士振りを見て、アメリカ法廷映画史に残る傑作だと感じた。改めてアメリカ映画の一分野とも言うべき法廷物の魅力に思い至り、映画で弁護士を演じた俳優のリストを作ってみたりした。精神に疾患を抱える艦長役、というのはむしろホセ・ファーラー向きのように思えるし、それを打ち負かす弁護士役こそボガートのものではないか。ところがボガート自ら艦長役を切望した由である。役者魂というべきか。

1954年 米 エドワード・ドミトリク監督

私のアメリカ法廷映画ベスト5

 1. 「運命の逆転」   学生を組織して弁護団を作る大学教授、ロン・シルバー
 2. 「ミュージック・ボックス」  主役は父を弁護するジェシカ・ラングだが、公平さを維持するユダヤ人判事が忘れ難い。
 3. 「評決」 ポール・ニューマンを完全に食っていた敵側弁護士ジェームス・メイソン
 4. 「シビル・アクション」 これもトラボルタを食っていた敵側弁護士ロバート・デュヴァル
 5. 「レイン・メーカー」 司法試験にいつまでも受からないダニー・デビート、悪事に詳しい弁護士ミッキー・ロークなど脇役に味がある。