パリは霧にぬれて

 現代の高度に発達した産業社会の緊張によって生み出される不安と恐怖に苛まれ疲弊する現代人の心理状態を描出するサスペンス・ドラマ、ということらしいが、さっぱり面白くない。ただ、かのニクソンに扮した性格俳優フランク・ランジェラの若き姿が見られるのが興味深いだけ。若いといえばフェイ・ダナウェイもひどく若く、妖艶な美女というところだが、晩年の下卑た顔を知ってしまっていると(下卑顔の三大巨頭、ソフィア・ローレンメラニー・グリフィスとダナウェイというところ)手放しで喜んでもいられない。ランジェラもこの当時はほとんど二枚目俳優としても通用しそうな顔をしており、事実ニ枚目として(モーリス・ロネよりずっと二枚目として)出ているが、後年は御承知の通り、怪物中年男という役回りである。それにしても「組織」というものに、解明不可能な悪を押し付ける一方、やたらにセンチメンタルな音楽が流れっぱなしのこの映画に、とうに無効になっている昔のフレーム・オブ・レファレンスを感じる。とはいっても現在、我々がその時代のフレームよりいいフレームを手にしているわけではない。またバーバラ・パーキンスといえば、「哀愁の花びら」という映画タイトルとともに懐かしくも思い出す名前だが、現在なんら肉体的にチャームされるものを感じない。感性の摩滅か。

1971年 フランス ルネ・クレマン監督