セントアンナの奇跡

 終ってみれば二時間半にもなる冗長な映画だった。往年のリアリズム映画の時代には、そのかもしだす異国情緒で心をときめかしたこともあるイタリア語の響きが、なんとなく重苦しい。その重苦しい音韻とともに、村民虐殺という戦争犯罪を突きつけられれば観客の私はひたすら憂鬱になるだけ。しかし映画で見ることができる虐殺など、観客の感覚的受容の限界内のものだから、何ほどのこともない。実際の戦争に伴う暴虐は正視に堪えないものだろう。実話に基づくといっても、映画という表象には限界がある。映画では実に開放的で無防備な服装をしているイタリア人女性がでてくる。敵地の女と見れば見境なしに襲う兵隊たちを前にして、彼女は昼日中に乳房をさらけだしたりもしている。しかし何ごとも起こらない。それもそのはずその女性はただ表象の限界内にいる、映画の観客にサービスするためにいるだけなのだから。ジョン・タトゥーロが出て、ジョン・レグイザモが出て面白くなるかな、と期待していたら、二人は冒頭のそのシーンだけの登場だった。最後に出てきた黒人の弁護士は印象に残るキャラクターだが、その弁護士を派遣して主人公を救うかっての村の少年は、どう見たって銃弾を受けて死んだはずなので、感動などする以前に狐につままれた思いがするだけだ。海岸で再会したその二人だけが勝手に感動しているようだが、その再会の状況はどう考えても不自然で、見ている観客はこれで感動できるのだろうか。それに、音楽が邪魔。虐殺のシーンで延々と流れるクラシカルな音楽は、叙事的に描くしかない悲劇にべたべたと叙情性を付与しているだけにしか聞こえない。実話に拠るらしいので文句は言えないが、こんなに複雑な話にしなくとも、感動はできるのであって、死んだと思っていた少年が生きていた、そして普通の暮らしを送っていた、それだけで十分ではないか。別にその少年が成功して裕福になりかつての恩人を救い返すなどという話でなくともいいのだ。

2008年 米・伊 スパイク・リー監督