クロッシング・ガード

 ジャック・ニコルソンが「恋愛小説家」で第70回アカデミーの主演男優賞に選ばれた日に、たまたまこの映画を見たので、冗長というしかないこの凡庸な映画を最後まで見てしまった。ちなみに1997年度のこの回は、「タイタニック」が11部門を取り、アカデミー賞を総なめにした年である。このアカデミー賞の授与式の中継番組で、嘘かまことかニコルソンの標準的な出演料が15億ドルと聞き、そのような超常的なレベルに評価されている彼の演技を観察してみようと思った。彼の演技の値段を計算してみると、2時間の映画に仮に出ずっぱりだったとして、1分当たり12億円、1秒当たり2千万円になる(当時のレート、1ドル≒100円)!。この作にはチョイ役で日本人の石橋凌も出ているが、彼の出演料はいくらなのだろう。オカマの日本人役で、それが変に典型として歪められた日本人像でなかったのは救いだったが、わざわざ日本から招致して出させるほどの役でもない。この頃アメリカ企業の経営者の報酬の突出ぶりがクローズアップされ、またプロスポーツ選手の巨額の報酬がスポーツ興行の存続を困難なものにした(メジャーリーグストライキは1994年)ように、映画においてもスターのアウトレイジアスな出演料がやがて斯界の自滅をもたらすのかも知れないのだ。俳優が大統領になれる国、というよりそのパフォーマンスに評価の軸があるという意味で、ほとんど大統領が俳優であるような国で、パックス・ロマーナが建築・彫刻・絵画という芸術を後代に残したように、パックス・アメリカーナは膨大な映画フィルムを後代に遺産として残すのだろう。
 交通事故によって娘を失った父親とその加害者が、娘の墓の前で和解するシーンに感動的にたどり着く前に、自暴自棄になった父親が連日ストリップ・ショーに通うくだりのダラダラした描写で、感動する心の準備というものが匹散してしまった。
 ところで史上最大と言われた「タイタニック」の制作費を調べてみると約2億ドルだった。そして興行収入が約15億ドル。となるとニコルソンの出演料が15億ドルというのはありえない数字だ。これは現地に出張してレポートしていた別所某というタレントの勘違いだろう。日本のキャスターも、えっ円じゃなくてドルですか、と念を押していたのに、別所某はそうです、と断言しきっていた。おかげで意味のない計算までしてしまったじゃないか。ハリウッドスター出演料ランキングなどで調べるとどうやらやはり15億円というのが正解らしい。1秒20万円。

1995年米 ショーン・ペン