ローマの休日 (6)

 映画の撮影ミスというものを探すのは案外楽しい作業だ。スペイン広場の時計台を始め、この映画でも、いろいろとミスが集められている。アパートでアンと話すジョーのネクタイの位置とか、カフェ・グレコでアイスコーヒーをかけられたアーヴィングの服がぬれていたかと思うとすぐ乾いていたりするとか。しかし極めつけは、これは良く知られている話で、厳密には撮影ミスとは言えないが、アン王女の歯並びである。ジョーのアパートで見せた笑顔には若干の不揃いが見られるが(そしてそれは彼女をいくらか子供っぽく、チャーミングに見せているが)、理髪店で見せる笑顔になるともう、その不揃いが消えてしまっている。エンディングの記者会見の場では文字通りロイヤル・スマイルを見せてくれることになる。
 時計台の指す時間が正しければ、スペイン広場でアン王女は、3時間ほどの間を置いて、2回ジョーに逢っている。きっとその間に、1ドル半の購買力を利して、歯の矯正処置をも済ませてしまったのだろう。