ローマの休日 (8)

 例の1ドル半の購買力の謎を知るために、「『ローマの休日』とユーロの謎」という本を読んでみたが、まったく参考にならなかった。思いもかけず、ノヴェライズ本の「ローマの休日」(百瀬しのぶ著)がこの謎の解法の一端を示した。サンダルの値段は2,600リラ(約4ドル)だった。アン王女は手持ちの1,000リラとそれまで履いていた自分のハイヒールを差し出した。靴屋のおばさんはそのハイヒールだけ受け取ってお金のほうは返してくれたのである。つまりアン王女は1,000リラを持ったまま床屋にいけたことになる。映画にはないこのくだりによって、見事にサンダルと散髪の価格の謎が解明された。もっとも床屋のマリオ・ディラーニは代金を受け取った後お釣りを渡していないので、ジェラート代がどこから来たのかという点が新たに不明になるが。
このほか「大人のための『ローマの休日』講義」(北野圭介)、「ワイラーとヘプバーン ローマの休日」(吉村英夫)というような本もあり、「ローマの休日」ファンとしてはつい読んでしまう。「ワイラーとヘプバーン―」にはダルトン・トランボ赤狩りに関する詳細な記述があり勉強になる。加えてこれらの本を読めば次の如き知見を得ることが出来る。この映画が戦後のマーシャル・プラン(ヨーロッパへの経済援助)の一環として、イタリアにドルを落すために作られたものであると見做せること。ドルを落すだけにとどまらず、イタリアの観光収入を増加させ、またイタリアの工業製品(ベスパ、フィアット)の宣伝にもなっていること。こういう現実的な話は面白い。