チャイナ・ガール

 これは、まさに先の大戦の開戦直後に作られたプロパガンダ的映画だ。ジーン・ティアニーがメーキャップも何もせず、西洋人の地のままで中国人女性(ハーフでもないらしい)と称しているが、一体どういう神経か。一方では、恐ろしく出っ歯の日本人将校が出てくるし、主人公のアメリカ人記者は、日本人を猿だ、屑だ、シラミだと言いたい放題。日本軍が中国の民間人をスパイと称して銃殺するシーンを映し、ビルマでの爆撃では、日本人は教師も子供も容赦しない、などと自分を棚に上げたような事を言う。主人公はやたらに尊大な自信過剰な男だが、アメリカ女から中国女からみんな彼に惚れる仕組みになっている。挙句の果てにこのような男に「この戦争は文明と未開の戦いだ」などと言わせる。なぜこのような映画が娯楽映画として今日本に流通しているのか。それよりもアメリカはなぜ国辱的映画としてこんな映画をお蔵入りにしないのか。この偏見に満ちた映画はアメリカ自体の国辱でなくてなんだろう。インディアンへの偏見に満ちた初期の西部劇同様、廃棄してしまいたいと思うのではないか。それとも、今でもまんざらでもない映画だなどと思っているわけはないと思うが、そんな映画は作った覚えはないと口をぬぐうよりも、すべて記録として保存するところにアメリカの良心があるのか。アメリカが作ったこのような言説空間の延長上にまだ我々はおり、その支配からとうに脱していると思うのは幻想である。

1942年 アメリカ ヘンリー・ハサウェイ