ディーバ

 郵便配達夫とオペラ歌手という道具立ては面白そうで、実際にパリやニューヨークで大ヒットしたとのことだが、見た限りでは、このメインのプロットと、売春婦組織や警察の腐敗や台湾の海賊版出版業者とかいう、賑やかするくらいのそのほかの道具立てとの組み合わせが成功しているとは思えなかった。これだけの要素を欲張っていっぺんに放り込んで、ただ全体の印象を散漫にしているだけのような気がした。郵便配達夫の青年と黒人女性のオペラ歌手が融和的に性交に至るシーンの浄福感を、散漫にならない印象の中で伝えて欲しいと思った。
 決して録音を許したことのないオペラ歌手の歌うアリア(カタラーニのワリー)を、彼女のファンの青年が、録音機「ナグラ」を密かに会場に持ち込んでテープに録音してしまう。
 その一方で、殺された売春婦が残した、売春組織の黒幕を暴く告白テープが偶然青年の手に託される。二本のテープをめぐり、警察と殺し屋とレコード業者とが争奪戦を繰り広げる。聞いただけでワクワクしてくるようにプロットだ。それだけに、もっとすっきり、もっと面白くできないのか、という不満が残った。もっともハリウッド的なアクション映画の定法的な処理をしていないところに、フランス映画としての真骨頂があるのかも知れない。しかしそうだとすればなおさら、もう少し映像美に凝ってほしいところがあった。ポップアート的に軽快な衛生的な画像では、物足りない思いがした。もう少し、映像が魔的なほどの美を具現していたら、この映画の荒唐無稽なプロットに完全に脱帽していただろう。
 とは言っても、純情な青年の住むシュールなロフトの描写や、その青年が乗り回すバイク(マラグッティ)や、パンクな殺し屋、コケティッシュベトナム少女、その同棲相手の謎めいた男の行動などが醸しだす非日常性は、十分に楽しめるものであった。

1981年 フランス ジャン=ジャック・ベネックス