バッド・トリップ

 「100万個のエクスタシーを密輸した男」という長たらしい副題の説明に尽きるだけの、どうということはない映画だったが、登場人物が正統派ユダヤ教徒というのは珍しい。いろいろな映画のおかげで、安息日ハヌカや過越しの祭りやバル・ミツバなどユダヤ教のしきたり、儀式などはある程度知っているつもりでいたが、この映画に出てくる、腕に何か黒い紐をぐるぐると巻きつける儀式は初めて見た。いろいろ調べてみると、黒い紐は祈祷用のバンドで、テフリンと称するものらしい。聖句を記した羊皮紙が入っている皮製の小箱(祈祷書箱;フイラクタリ)がこれについていて、祈祷の際にこの小箱を映画にある通り額と左腕につける。しかしユダヤ教もこうなると完全に「拝み屋」的な原始宗教である。原始宗教だろうがなんだろうが、それがコミュニティの基盤になる得る限り、現在でもそれは社会の重要な要素であるが、こういう思考停止としか思えない信仰だから、一方でドラッグの密売という「犯罪」に手を染めても何ら痛痒を感じないのだろう。
 ジェシー・アイゼンバーグは「ソーシャル・ネットワーク」でマーク・ザッカーバーグというキャラクターを創造的に演じたと思ったが、この映画のサム・ゴールドというドラッグ密売人を演じた演技を見る限り、そうでもないようである。つまり演技的には似通っている。「ソーシャル―」から受けた特異な印象は、彼の演技からというより、セリフを早口にするために音声を早送りにし、まるで機関銃のように喋らせたという、そのことによっているらしい。

2010年 米 ケビン・アッシユ