伊豆の踊子

 同じ吉永小百合主演の「大空に乾杯」などとは異なり、時間の試練を越えて生き延びるであろう物語。一人の少女の淡い恋心という言わば定番物に過ぎないが、描かれた旅芸人たちのはかない暮らしのありように、この物語のもつ不朽性が感じられる。「愛のない結婚なんて不潔よ」などという薄っぺらい言葉ではなく、ここには重々しい宿命というものがある。そのどうにもならない人間の宿命に心を打たれるのである。若山二郎と川端康成のものするものが「小説」という同じ言葉で呼ばれているのが不思議なくらいだ。伊豆の田舎道や宿場などの情景も、下手をすれば後進の貧困国のそれに見えかねないところだが、愛情をもって撮られたそれは十分美しく、映画として世界に通用する美麗な映像になっている。そして吉永小百合の可憐さはもっと世界中の男たちの心を焦がすべきではないか。その可憐さが川端の後年の「眠れる美女」につながっていくものであるにしても。我が強い騒々しい女優たちしか与えられない欧米の男性は、それだけ共和国的試練を受けることができるとは言えるが、気の毒と言えば気の毒である。十朱幸代がチラリと出たり、大坂志郎、南田陽子、桂小金治と俳優も懐かしく嬉しいところが出ている。難は若い高橋英樹が、年老いて宇野重吉になってしまうあたりか。出来うることなら現在の太りきった高橋英樹を出したいくらいのものだ。

1963年 西河克己