嵐が丘 2

 映画雑誌の背表紙で、丘の上に立つヒースクリフとキャサリンローレンス・オリヴィエマール・オベロンの写真を見たときに、私はそれだけでこの映画に恋焦がれるようになった。気恥ずかしいが、「恋に恋する」という現象だった。ほぼ同じ時期にやはり雑誌の背表紙で「かもめの城」の写真を見たときも同じような心境になった。
 「嵐が丘」は原作の小説を、読みにくい思いをして読んだが、肝腎の映画は、見る機会が何度かあったにも係わらず、ろくろく見なかったような気がする。そのとき私の心の中にはすでに病的なまでに純化された「恋」という概念が生じていたので、小説も、映画ですらも、どこか散文的で物足りないように感じた。丘の上の二人のスチール写真だけで十分のような気がした。「嵐が丘」という地名と、ヒースクリフ、キャサリンという人名の響きだけで、この世のものならぬほどの至高の「恋」という観念が頭の中に巣食っていたのである。
 最近、廉価版も出ているのでDVDを買って、初めてじっくりと見てみた。若きローレンス・オリヴィエ。暑苦しい顔とはいえ、その密度の濃い美男ぶりに一驚した。しかし、「恋に恋した」頃の、熱い思いは甦るべくもない。二人が逢引をした例の丘が、「ペニストンの岩」という名であることを知り、明らかなその性的コノテーションに驚いた。

1939年 アメリカ ウィリアム・ワイラー