シスター・スマイル ドミニクの歌

 この映画も「尼僧物語」と同じく、ベルギーの修道院が舞台で、時代はまさにコンゴ独立目前の1950年代末である。そしてシスター・スマイルもまた、コンゴでの救援活動を志す。実際のジャニーヌは敬虔なキリスト教徒だったらしいが、この映画で見るジャニーヌはキリスト教修道院に馴染まない性格に思える。彼女の修道院入りも、コンゴ行きに必要な手段に過ぎず、また単に家が押しつける結婚や家業への反抗からの一時的逃避に過ぎないように見える。だから彼女はほとんど傍迷惑な存在としか写らない。自由な女性、言いかえれば極めてわがままな女性としか。これでは下手をすれば、芸能界における一発屋の悲劇みたいに思ってしまったかも知れない。
 1963年、コンゴ動乱が継続しているさなかに、アメリカでミュージカル映画「歌え ! ドミニク」が作られる。デビー・レイノルズ主演のこの映画を、当時30歳のジャニーヌは「ウソだらけ」と評した。ジャニーヌは結局コンゴに行く機会を逸したが、この映画では最後に修道尼アンが、歌も愛も捨ててコンゴに渡る、という典型的な感動的エンディングになっており、そうでなくともミュージカル的虚飾に満ちているから、当然だろう。
 この映画のためかどうか、「ドミニク」の歌の陰に一人の歌手の、自殺で終る人生があったことなど知る人は少なかったろう。あの明るい歌声だけ聞いている限り、誰がよくそれを想像しうるだろうか。多額な印税のほとんどを修道院に寄付していたのに、寄付の証拠がないために莫大な税が課せられ、そのもたらした経済的苦境が自殺の一因であるらしいが、証拠がないというが、受け取った修道院側が証言すれば済むことではなかったのか。不可解だ。修道院側が税の負担を嫌ったのだろうか。「歌え ! ドミニク」に較べたらはるかにリアルな映画であるし、伝記などを読み込んで役作りをしたセシル・ドゥ・フランスの演技はすぐれていると思うけれど、自分が自由に生きる女性の代表みたいになったこの映画をジャニーヌが見たら、これはこれで「ウソだらけ」と言いそうな気が、私にはする。今も見ることができる実際のジャニーヌの姿形や、何よりも「ドミニク」のあの詞を書いた女性、というイメージとは幾分のギャップを感ずるのだ。あの詞はデビー・レイノルズはもとより、セシルにだって書くことは出来ないだろう。

2009年 フランス・ベルギー ステイン・コニンクス