キャピタリズム マネーは踊る

 ムーアの映画を見ていつも思うことは、相手を茶化しながら、公けの映像の中に引っ張り出そうとするその方法がはたして有効だろうか、ということだ。見ている分には面白くあっても、彼の告発が一向に有効でなければ、それはただ彼自身のためのパフォーマンスに過ぎなくなる。「ボウリング・フォー・コロンバイン」や「華氏911」の告発は一体どこまで届き、どの程度その世界の深部をゆるがしえたのだろうか。前者は銃社会アメリカを変ええず、後者はブッシュの再選を阻止できなかった。
しかし少なくとも、この映画は直近の「ウォール街占領」運動に多分につながっているのだろうから、彼のやり方は満更でもないということか。真実を知るということはともかく第一ステップである。

 彼がこの映画で明らかにした事。
 レーガン大統領を顎で使うモルガン銀行総裁リーガン。つまり国家というものの上に金融資本があるということ。その金融資本がもたらした世の惨状。詐欺的なサブプライムローンの破綻で強制立ち退きの目に合う人、大量のレイオフ
 金銭至上主義が世にはびこる。流通業の雄、ウォルマートは労働者を契約社員化した。そして会社を受取人にして従業員に保険をかける。パイロットたちの恐るべき低賃金。それはパイロットの質の低下に直結し、いつ事故が起きてもおかしくない状況となる。矯正施設(刑務所)までもが民営化された。そこでは国の補助金を引き出すためにより多くの受刑者が必要になり、施設業者から判事に金が動く。ほとんど犯罪者が作られているのだ(タダ同様の低賃金で使役できる労働者を確保する、という側面もある)。これらの大元の大悪、金融資本は、政府から援助金を受けながら大量のボーナスを支給するほど無神経で傍若無人なままである。
 この映画で、公平平等な共同体として会社を運営している例が紹介されたのが、わずかばかりの希望のようなものだが、ウォール街への座り込み以上にこのような実践こそが必要だ。

2009年 アメリカ マイケル・ムーア
Capitalism: A Love Story