アザー・ピープルズ・マネー

 タイトルへの、この英語の傍若無人な侵入ぶり。「リバー・ランズ・スルー・イット」に至っては、名詞のみならず動詞や前置詞にまで侵入している。
 ラストの演説シーンがなんと言っても印象的である。片やグレゴリー・ペック。背が高くハンサムで(だいぶ年を取ってしまったが)誠実な実業家である。片やダニー・デビート。チンチクリンで、お世辞にも風采が上がらず、しかも乗っ取り屋という虚業家である。この二人が会社の行く末をかけて演説合戦をする。勝敗は最初から決まっていると誰もが思う。しかし、あにはからんや、最後に聴衆、つまり株主の心をつかんでしまうのは、ダニー・デビートの方なのだ。あたかも「ジュリアス・シーザー」を思わせるような鮮やかな逆転劇。
 90年代、金融戦略を立て直したアメリカの、尚も虚業の勝利を謳うこの映画が、バブルが崩壊し、転落しつつある日本に紹介された。アザー・ピープルとは俺たちのことだと気づいた日本人が果たしてそのとき存在していたであろうか。

1991年 米 ノーマン・ジュイソン