セイヴィア

 ユーゴ紛争を描いた映画は他に「アンダー・グラウンド」(1995)、「ウェルカム・トゥ・サラエボ」(1997)、「戦場のジャーナリスト」(2001)があるが、未見のこれらを除いた中で、「セイヴィア」はもっとも無惨な映画だった。実はこの映画のことはほとんど忘れていた。ユーゴ紛争の映画を考えているうちに、そういえば何かデニス・クェイドが出ていた映画があったなと、思い出した。それは何か思い出したくないことを思い出したような嫌な感覚だった。
 湖畔での殺戮のシーン。それはセルビア側の犯行なのかクロアチア側の犯行なのかどちらでも大差ない。ただそこでは人間が人間に対してできうることの一つの極北の形が露わにされていた。悪夢のようなこの映画を、私は急いで忘れようとしたのか記憶の奥に閉じ込めたのか。最後は子供にでも希望を託すしかないという映画の結末だが、制作者の意図通りそこに希望を見出せる観客はまだ幸いである。デニス・クェイドこそ最後は銃を捨てたが、世界はまだ武装したままだ。人間の蛮行はまだまだ続くだろう。
 無惨で刻薄なこの世で、人はセイヴィア(救世主)を求める。しかしその救世主は救世の見返りに新しい殺戮を求めてやまないかのようである。

1998年 アメリカ ピーター・アントニェヴィッチ