M バタフライ

 結構スゴい映画だけれど、いくらジョン・ローンでも女形はムリではないか。絶頂期の梅沢冨美夫にでもやらせたかった役だ。フランスの外交官ジェレミー・アイアンズの上司である大使、実はフランス情報部員の、抜け目なく冷酷なしかし洗練されたキャラクターがさすがで、興味はそちらの方に移ってしまった。
 実話に基づくというけれどどこまでが実話なのか。その恋した舞台女優が最後まで男だとは気づかずに、妊娠したとまで言われそれを信じてしまうところまでもが実話なのか。
 男が演じた完璧な「女」以外をもう愛することができないアイアンズが、蝶々夫人の扮装で自殺するラストシーンは、しかし感動的だ。あらゆる芸術上の産物は、その本質は結局男が描く幻想としての永遠の女性像なのだという意味では、これと同じなのではないか。実物の女性がその幻像を模倣するように男性によって強制される制度がこの間までは機能していが、現在はこの制度は消滅した(AKB48は、秋元康の少女幻想を再生する装置では決してない)。梅沢冨美夫も今や平気で素顔を見せているし。

1993年 アメリカ デビッド・クローネンバーグ