ラッフルズ・ホテル

 見るも特段の感慨なし。ヒロインたる映画女優の萌子(藤谷美和子)がただボーっとしたバカにしか見えないのでは話にならない。ホテルのレストランで何とかというシャンパンの銘柄を指定して通ぶるのはいいけれど、試飲して鷹揚にボーイにうなづくところが、単にペコペコしているだけに見えるのは情けない。とはいえ大方の日本人がそういう場合には同じように見えるであろうことを気づかせてくれはする。とにかくこれでは快楽を知り尽くした人間の倦怠どころか、単なる観光地のスノッブなキャピキャピ日本人の一人にしか見えないではないか。根津甚八にも大して存在感はなく、わずかに本木クンが日本人であることを引き受け日本人であることに自足している感じでよかった。しかしこの自足感は実は、バタ臭くハンサムな彼の容貌に負っているのかも知れない。ともあれ、可塑的な言葉とは違い、固化した俳優の肉体というものと格闘しなければならない映画は、村上龍にとっては小説よりも難しいものであるようだ。

1989年 村上龍