サブリナ

 嬉しいストーリーの映画ということだろうが、ボガートとヘプバーンならともかく、リメイク版で、同時代を生きる俳優に演じられては、このお伽話に素直にのめりこめない。兄ライナスのハリソン・フォードはまだしも、弟デイヴッドのグレッグ・キニアはウイリアムホールデンに較べるのも気の毒なくらいだ。元祖サブリナのヘプバーンはまだ25歳だったけれど、こちらのジュリア・オーモンドは出演時すでに30歳であるのも痛い。
 大体10億ドルを動かすビジネス以上に、男が熱中できる面白いものがこの世にあるだろうか。ないとはいえないが、それが恋愛であるとは信じられない。お城のような豪邸に無数の使用人を雇い、誕生日のプレゼントにピカソを贈り、ビル一棟をあっさり市に寄贈するような大富豪が、単なる小娘に心を奪われてしまうとは。ビジネス一筋の無粋な男が麻疹にかかるように恋愛に取りつかれた。だとするとこの映画のハッピーエンドは、むしろ悲劇の幕開けのように思えてしょうがない。二人の生活の破綻は目に見えている。
 ライアスの行動を、プレイボーイの弟への嫉妬としてみると面白いかも知れない。幼い頃からひたすら弟に向けられていた女どもの慕情を丸ごと奪うことが、あたかもビジネスにおけるライバルの買収のように快感をもたらしたのかも知れない。そして弟のほうもそれまで兄に独占されていたビジネスに始めて「征服されるべき女性」の姿を見出したことになる。
 「麗しのサブリナ」(1954)の廉価版を買い求めて、このオリジナルを改めて見てみたが、やはり大して面白くなかった。かっては恋愛の幸福という幻想を引き受けていたパリという都市もすでに奈落して久しい。

1995年 米 シドニー・ポラック