私の小さなピアニスト

 絶対音感を有する少年キョンミンに扮した子役シン・ウィジエの、ちょっとこまっしゃくれた容貌が災いして、この映画への感情移入は不調に終わった。その容貌だけではない。キョンミンは交通事故で母を失くした問題児という設定で、そのキョンミンから母のように慕われてピアノ教師ジスは困惑するが、見ているほうもキョンミンに同情するより端的に困ってしまい、このキョンミンを持て余してしまう。
 しかし、そのキョンミンが成人した姿で、成功したピアニストとして、最後に出てくる。実際に世界的なピアニストでもあるジュリアス=ジョンウォン・キムの、その魁偉というべき容貌に衝撃を受けた。ジュリアスの顔自体はむしろ温厚な二枚目であるが、子役シン・ウィジエの成長した姿として受け止めてみると、内的に抱えているもののもの凄さが感じられ、それが私には魁偉と見えた。これは全く監督の計算していることではないはずだが、何かその容貌に、私は内に深く秘められた母への思慕の残存を感じた。彼がステージでジスの為に弾くトロイメライは物語の終りではなく、新しい物語がここからこそ始まるのではないかと思った。

2006年 韓国 クォン・ヒョンジン