愛情物語

 タイロン・パワーのすごいピアノ演奏(の演技)が楽しめる映画。一方、二枚目俳優というパワーの自負が禍いして、恩人でもあるキム・ノヴァクとの愛が通り一編にしか伝わってこない映画でもある。邦題「愛情物語」の愛情とは、キムヘの愛ではなく、息子への屈折したそれを指しているのか。ヘイズ・コード下ということもあるが、二十三歳と若く美しいキムがもったいなくて、もどかしくなってしまう映画だ。後半はヴィクトリア・ショーが出てくるが、やはりもどかしいのは同じだ。
 カーメン・キャヴァレロのアレンジによる主題歌、ノクターンの二番は有名で、あまりポピュラーになりすぎたため、ときにクラシック演奏家から元曲まで軽視されてしまう傾向がある。音楽的には深みがないなどとしたり顔に言う評論家もいたりする。オルゴールや電話の待ち受け音楽などになってしまってはそれも致しかたないかもしれない。しかし、1830年ショパンがこのようなモダンな曲を作ったこと自体はやはり驚くべきことである。日本ではまだ天保時代、将軍が徳川家斉の頃だよ。

1956年 米 ジョージ・シドニー