秋のソナタ

 ソナタと言いつつ、実際に出てくるのは前奏曲(プレリュード)ではないか。また俗受けを狙った邦題をつけおって、と思ったが、原題もちゃんとHöstsonaten(Autumn Sonata)でした。どうも邦題にケチをつける癖がついてしまったらしい。すみません。ちなみに「善き人のためのソナタ」の原題はDas Leben der Anderen,(The Lives of Others)で、ドラマ「冬のソナタ」は겨울연가(冬の恋歌)。
 音楽的才能が豊かで、奔放な生き方をするピアニストの母(イングリッド・バーグマン)。その母に対し積年のコンプレックスを持つ娘。長年連れ添った愛人を無くした母が、久しぶりに娘の家を訪れる。傷心の母の力になろうと母を歓迎した娘だったが、次第に、一旦は忘れようとした二人の過去の確執が蘇ってきて、母娘の秘められた感情は不可避的にぶつかり合うことになる。
 二人がそれぞれの演奏するショパンのプレリュード2番を聞きながら、互いに憎悪を確認するという恐ろしいシーン。親子の確執は特別なものとはいえ、この憎悪の持久力の凄さはやはり西洋人だなと感じる。
 作中、母親が語るこの曲の解釈は貴重なものなので、以下に写しておこう。
 テーマは抑圧された苦悩。冷静かつ明確に表現すること。
 情緒的だが流されてはダメ。情感と感傷とは違うから。
 曲想は、表に出さない悲壮感、一瞬の安らぎのあと、たちまち苦悩がもどる。―常に抑制を利かせて弾くこと。
 ショパンは誇り高く辛辣で情熱的で雄々しい。女々しさはない。
 耳障りな響とどう戦い、それをどう克服するか。

 本当に、この曲は不協和音をねじ伏せるようにしなくては弾けない曲だ。
 この映画を、ショパンは草葉の陰でどう思っているだろうか。自作が所を得た、と思っているのではないか。愛の懊悩をこの短い曲にこめられるショパンは凄い。ジョルジュ・サンド親子との間で愛の葛藤を味わわされた彼は、愛のダークサイドも知悉していたのだろう。

1978年 スェーデン イングマール・ベルイマン