恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ

 ながらく「無冠の名優」とされていたジェフ・ブリッジスもようやく「クレイジー・ハート」でオスカーを獲った。彼の出演作は多いが、この「ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」がジェフにとって最良、最適の役柄のように思える。ミュージシャンでもある本領を発揮してピアノなどもサラリと弾いてみせるのだ。彼等の芸の厚みには驚くばかりで、ハリウッドではピアノが弾ける役者の確保には困らないことになっている。さらに最近ではヴォイス・トレーニングで、短期間にプロにひけをとらない歌唱力を身につける俳優もいたりするので、歌手のほうでも、演技力を身につけてせいぜい映画に出ないと負けてしまいそうだ。それはともかく、共演した兄のボー・ブリッジスが賞と無縁なのはどういうわけだろう。デニスとランディのクエイド兄弟同様に容姿は弟の方にいささか分があるが、そのせいだけではないと思う。二人の父親ロイド・ブリッジスも俳優で、この父親とジェフの共演が「タッカー」「ブローン・アェイ 復讐の序曲」と二作あるが、ボーとの共演はない。この兄弟に隠れた「カインとアベル」の物語がないのかどうか、興味があるところである。その父が赤狩りで追放された共産主義者とくれば、これは親子の劇としても役者には事欠かないだろう。

1989年 米 スティーヴ・クローヴス