四日間の奇蹟

 サヴァン症候群であるとか落雷で人間の魂が入れ替わるとか、さまざまな仕掛けが取り込まれているが、蓮實重彦に言わせたら、「メロドラマ」「紋切型」「とうに始まっている物語」「退屈な反復」などという言葉が百万遍も出てきそうな映画だ。ピアノ映画としても、「男はつらいよ」のミツオ君には、タイロン・パワー(愛情物語)や、ジェフリー・ラッシュノア・テイラー(シャイン)や、エイドリアン・ブロディ(戦場のピアニスト)、ティム・ロス(海の上のピアニスト)のような芸はないが、せめてケヴィン・クライン(五線譜のラヴレター)くらいまでは、俳優として特訓してほしいと思う。
 そうは言ってもしかし、この映画に素直に乗せられて感激してしまったのだから、映画との出会いというのは分らないものだ。これは多分作中で演奏される「月光」や「別れの曲」の持つ音楽の力のせいだろう。それにしても「左手のピアニスト」がいるくらいなのだから、左手薬指が動かないくらいなんだと言うのだ、と言ったら少し酷薄か。しかしその方が「物語のある」ピアニストになれるのは間違いない。蓮實重彦が何と言おうと映画の観客に限らず、「人間」は物語を必要としているのだから。「物語」が終わり「人間」も終わってしまっても、映画というものは観客席に孤独な人間を集め続けるだろう。

2005年 佐々部清