神童

 原作は”さそうあきら”のマンガである由。この原作はまだ見る機会がないが、同じマンガでも「ピアノの森」は少しだけ読んだ。こちらは「文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞」を受けたとのことで世評は高いようだが、私は全く受付けなかった。だいたい森の中にピアノが雨ざらしである、という状況を受け入れられる人でなければ物語に入っていけない。このピアノを弾きこなす天才少年がいるのだが、彼がイジメられっ子であるという設定がいかにも過ぎる。天才である彼は、ピアノのわずかな音程の狂いを指摘し、調律師が「良く気づきましたね」とか言って感心するのだが、もともとピアノは十二平均律なのだから、ユニゾンオクターヴ以外は不協和音なのである。特定の楽曲に合う調律が存在するだけに過ぎないだ。そんなこんなでアーパーな話なのだが、いじめられっ子がショパンコンクールに挑戦する、という話が受けてしまう日本なんだなあ。
 映画「神童」は、なかなか良かった。天才少女、成瀬うたがモーツァルトのピアノ協奏曲をたちまち暗譜し、リハーサルもなしに一発で本番を決めるなど、こちらもアーパーと言えばアーパーな話なのだけれど、生意気な成海璃子がいかにも天才少女らしくて良い。松山ケンイチもボーっとした善良な青年が適役。「ピアノ吹き替え」という言葉を始めて知った。演奏シーンを俳優に替わって(顔を映さずに)演じるプロのピアニストのことらしい。成海璃子の場合、自身ピアノが弾けるが、河野紘子がこれを担当した。音のほうは和久井冬麦のそれであるなど、複雑なことになっている。

2007年 萩生田宏治