潮騒

 三島由紀夫のそれではなく、これはフランス映画。
 原題は「偶然と暴力」で、不条理感の色濃く漂う映画だった。イブ・モンタンの、こういう映画に向いている複雑な表情が利いている。昔、誤認逮捕で投獄された経験を持ち、そのときから暴力に興味を抱いた主人公は、「偶然と暴力」というベストセラーを書き、犯罪学者として一躍若者の支持を得る。その後沈黙を守っていたが、いまその続編を書くべく、投獄の地を再訪した。暴力の予感が漂うその地で、キャサリン・ロス扮する女医に恋をしながら、最後は暴漢に襲われ死んでしまう。キャサリンがその挑発的なスタイルで、ひと気のない海岸に出てゆく時、災難は必然的に予見されていたわけで、偶然の驚きというよりか、必然の息苦しさが感じられるが、結局、なんだが訳のわからない映画で、不条理を描くということが目的だったとすれば、その目的は見事に達成されたことになる。

1972年 フランス フィリップ・ラブロ