白いカラス

 フィリップ・ロスの、人種差別問題をテーマにした小説「ヒューマン・ステイン」の映画化。「白いカラス」とは極めて恣意的な邦題であって、これでは黒人の血が流れていながらそれを隠している人間を、あたかも英米では「白いカラス」と呼ぶというような誤解を招きかねない。それが創造的な比喩だとしても、原題とは全く違うタイトルとしてそれを使うことは適切だろうか。映画の中で確かに黒いカラスは出てくるが、それは黒人の血が流れる偽ユダヤ人たる主人公(アンソニー・ホプキンス)のシンボルとしてではなく、性的虐待がトラウマになっているヒロイン(ニコル・キッドマン)の方のそれなのである。今のところ、黒人はカラスなのかというクレームはついてないみたいだからいいけれど。
 それにしてもタイトルばかりに引っかかって、話が内容まで及ばないというのはあまり良くないのでやめよう。このタイトルを「よく考えられている」と気に入っている人もいることだし。内容はというと、美貌のキッドマンがなぜか薄倖の女性に扮しているし(現実には美貌と薄倖という組み合わせはほとんどない)、その相手がホプキンスと来れば、いいに決まっている。

2003年 米 ロバート・ベントン