ザ・ウォーカー

 核戦争後の廃墟となった世界で、デンゼル・ワシントン扮する男が持ち歩く、この世にたった一冊残された本とは、もちろん聖書なのだが、この聖書が「世界最終戦争」の原因になった本、としておきながら、最後は、再びこの世界に平和をもたらすためにその本が必要とされるという話になっている。ゲイリー・オールドマン扮する独裁者カーネギーが、世界支配の道具としての聖書を切望するという、聖書の負の一面も示されるが、結局はキリスト教を喧伝する映画なのだろう。しかしそのように宣伝しても、多分世界の別の場所ではたった一冊残ったコーランを持った男が同じように教えを広めようとすることに変わりはないのである。それにしても主人公が○○だったとはいっぱい食わされた。始めの方だけもう一度見てみたたが、なるほど状況は彼が○○であることを許容するが、演技そのものは○を使った演技をしているので、あまりフェアな意外性とは言えない。
 柄谷行人「世界史の構造」を読めば、このような世界の破滅がありうることだと考えざるを得なくなる。世界共和国へ向かわなければならないということの同意形成がうまくいかなければ、遅かれ早かれ、我々を待つ運命はこのようなものである。最終戦争の後に聖書が残ったとして、一体それが何になろう。むしろ「世界史の構造」という本をこそ「あとの祭」の記念として、あるいはこの世界に最後の厄災をもたらす原因となった本として、残しておくほうが良い。
 盲目の女性役、後で言われてジェニファー・ビールスと気づく。彼女ももう48歳である。

2010年 米 アルバートアレン・ヒューズ