マーティー

 この映画は、アカデミー最優秀作品賞、監督賞、主演男優賞(アーネスト・ボーグナイン)、脚色賞と4部門も受賞しているので、一度は見ておくべきだと思っていた。さらにカンヌ映画祭パルム・ドールも受賞しているらしく、180度ほども評価基準の違う両賞を取ったのは、この映画と「失われた週末」の二作だけらしい。これだけ高評価を受けた映画だが、「クイズ・ショー」という実録映画では、誤答をもたらすカルト的クイズの対象になったりしている。
 まわりから不作だ不作だ、といわれているヒロイン(ベッツィ・ブレア)、見ての通り決して不美人ではなく、ただコケトリーがないだけだが、見ていると不思議にやはり不作だと思えてくる。演出の妙か。マーティーが、彼女をくさす母親や友人たちを振りきって、この女性に電話をするところで終る。マーティーが周囲の人間を振り切る、ということがミソで、母親はとにかく友人まで、人の結婚の相手のことにまでいろいろ口を出してくるのだ。しかもこの友人たちは、なぜマーティーが付き合っているのか疑問に思うほど、どうということのない、はっきりいえばつまらない人間たちである。そんな人間たちでも友人がいるということは、アメリカでは、友人もなく孤独でいることより、はるかにマシなことなのだろう。多分「孤独なボウリング」(パットナム、2000年)という本は、アメリカにおけるこのような性向、つまり近所づきあいや友人関係や、教会に行くことで「共通感覚」を保持できていた時代の終わりを告げるものなのだ。

1955年 米 デルバート・マン