心のともしび

 臆面もなく正統的にハッピーエンドで終ってくれる映画。失明した女性を救済する、というのはレイプ・ファンタジーの一種の変形に過ぎないが、本作はその救済のために、自ら医者になってしまう、というのだからすごい。ジェーン・ワイマンは登場したとき、てっきりヒロインの母親役だと思ったが、なんの彼女こそがヒロインだった。あとで調べてみたら案の定ロック・ハドソンより8歳年上(37歳)。かのレーガン大統領の最初の奥さんだった由。監督のダグラス・サークは、「メトロポリス」のフリッツ・ラング同様、ウーファ出身のアメリカ亡命組の一人。
 Goo映画の解説を見ると、1935年に映画化されたロイド・C・ダグラスの「聖衣」が原作であるという。そこでその「聖衣」を見てみると、キリスト教が浸透していく時代のローマを扱ったこちたき史劇なので、どういうわけかと首をひねってしまった。
 「心のともしび」の原題はmagnificent obsession で、「聖衣」はキリストを処刑したローマの護民官が、良心の呵責からキリスト教を信じるようになる話だというので、この二つの話の関連の見当がついた。自分の身代わりに一人の人道的な医者の命を奪ってしまい、さらにその妻を自動車事故で失明させてしまったことを、キリストを処刑してしまったことと見なし、その女性を救うことを、贖罪と入信という行為と見なしたわけだ。この、キリストを処刑してしまったという行為は、偽史的にそれをユダヤ人のせいにしてしまうほど、西欧人にとっては、自身の根幹をゆるがすほどの強迫観念magnificent obsessionになっている、という事情がうかがえる。すると、この映画は、キリストを殺したのは他ならぬ自分達だ、ということを素直に認めた映画、ということになる。妻がユダヤ人であるためにアメリカに亡命したサークはそこまで考えていたに違いない。
 誰かそう解説してくれていたら、もっと注意して見ていたのに、ただの古くさいラヴ・ロマンスとしてしか見なかったじゃないか。

1954年 米 ダグラス・サーク