ボルサリーノ2

 大昔に見た映画の再見で、内容はほとんど忘れていたが、敵役が滑稽なほど小男であることと、主人公の情婦がニューハーフ系の無骨なガタイをしているので興醒め、という初見の時の感想が、見ているうちに甦ってきた。
 読んで面白い映画批評の一つに精神分析的映画批評というものがあるが、そのまね事をしてみよう。小男の敵役、ムッソリーニの流れを引く右翼ということにしているが、どう見てもヒトラーを当て込んでいるのは明白だ。これは、ナチスにひどい目に合わされたフランスが、レジスタンス活動などの艱難辛苦の後にヒトラーを倒した、という自ら作り上げた物語を、再演してみせる映画である。自分達がナチスに蹂躙され、ナチスに屈服したのは、ロッコ・シフレデイの如く無理やりアル中にされたからで、決して本意からしたわけではない。―という風に精神分析批評らしきものが成立しそうだが、となると最初に敵役の弟を殺してしまうのは、WWⅠの後のベルサイユ体制のことで、その弟はロッコの相棒のカペラを殺しているわけでこれがWWⅠということになる。なんだか複雑になってきた。
 時至り、報復の時がやって来た。その報復たるや、ヒトラーを生きたまま機関車の釜にくべてしまうという激越なものだ。

1974年 仏 ジャック・ドレ